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「晶さんは素材がいいから飾ったら大変なことになる」

「素材?」

「うん…」

「それ言われた」

「誰に?」

ちょっと夏希ちゃんの表情が険しくなった。


「担当の美容師さん」

「……」

「カットモデルする代わりにタダで髪きってくれる!ちょうお得っ!」

「……」

「貧乏人の救世主っ!」

「そいつ男?」

「だね」

「………美容師は素材見抜く目あるからね…」

「……?」

「おまけに直に触れるし…」

夏希ちゃんの顔色が変わっていく…

「触らずには髪もメイクもデキナイしね…」

「……だから嫌」

「──…」

「モデル断って」

「……カット代タダ…」

「俺が切る」

「それ勘弁」

「……」


夏希ちゃんは急に仰向けになって溜め息を吐いた。



「じゃあ担当、女の人に代えて」

「誰でもいいって言ってもその人がシャンプーから仕上げから全部してくれる。売れっ子だから待たされて面倒臭いんだけどいつもくるから…」

「………」

「たぶんカットモデル確保するの大変なんだと思う。

(* ̄O ̄)ノ至れり尽くせり」


「嬉しそうに言うなっそれを世間じゃ下心って言うの!」

「下心?」

「男の美容師なんてホモか女好きかどっちかなんだよ、そんだけ手を出してくるなら女好きで完全に下心だってわかりなさいっ…たくっ!」

「………」

仰向けから変わって夏希ちゃんは背中を向ける。

「晶さんさあ…」

そう言ってクルッとまた戻ってきた。

「タダに弱い?」

「結構…てか女はみんなタダに弱い」

「それは知ってるけど、晶さんは無防備過ぎる」

「……」

「晶さん、最初に同居する時、俺…なんて晶さんに条件出した?」

「……手を…出さない…って…」

「言ったよね?で…、同居して俺に何日目で襲われた?」

「……いっ、週間…」

「……」

夏希ちゃんは溜め息を吐く…



「……男なんてそんなもんだよ、下心あったら平気で嘘つくから」

「でも夏希ちゃんは約束するって…」

「最初っから破る為に偽物の約束したのっ!覚悟してない約束は男は平気で破れるのっ!それを学びなさいっ!」

「俺様だ…」

「言ってろ!…」

怒鳴ったあとに夏希ちゃんはあたしを見つめて溜め息をつく。

「心配なんだよ…わかってよそこを…」

「うん」

「わかってないのに返事したらダメ」

「……」

「返事しなさい」

「どっち?」

「てか、わかりなさい」

夏希ちゃんは頬を軽くつねってくる。

「俺がまともだったからいいけど危ないヤツだったら晶さん生きてないよ?部屋で二人きりなんて何起きても文句言えないよ?新聞載っちゃうよ?──世田谷区ワンルーム。美少年、惨殺事件!なんて見出しで…」

「はは、ここ世田谷区じゃないしっ…そしてなぜ美少年?」

「見出しは適当。メディアなんてそんなもん」


そう言って夏希ちゃんは笑うあたしをそっと抱き締める。

ぎゅっと腕に加わる力。

夏希ちゃんはあたしのつむじに顔を埋めた。



「……これ、俺のなんだからもっと大事にしてよ…」

「……」


「俺だけが必死になっても晶さんがその調子じゃ守れないよ?」

「……うん」

「晶さんに何かあったら俺どうすんの?」

「どうなるの?」

「……」

「おかしくなる?」

「……晶さんのパンツ被って外走り回る…」

「……ぶっ…それってアレじゃん!…変態ナントカってやつ!」

「笑う前にそうならないように努力してよ晶さんっ!?そんななったら週刊誌に載っちゃうよ? 藤沢 聖夜── 夜な夜な奇行に走るって!」

「走り出す前に職質受けるよたぶん…パンツ被った時点で通報されるから」

考えただけで笑いが吹き出す。

あたしの頭にはパンツを被って連行される夏希ちゃんがしっかりと浮かび上がっていた。

「晶さんのせいで積み上げた俺の20年間がパアになる…」

「うん、ならないように気を付けるから」


「俺のために守ってよ自分を…」

「うん」

あたしは抱き締めてくれていた夏希ちゃんを抱き締め返す。



こんなにユーモラスでかっこよくて一途に好きだって言ってくれる人──


もう他には現れない…


かも?



「だいすき…」

間には何も入れないってくらいに抱き締め合う。

「離れたら俺ストーカーになるからね…」

「うん」

「地球中捜し回るよ?」

「うん」

「そのくらいの金あるからね?」

「ふふ…」

「なに笑ってんの?」

「なんでもない」


なんでもない…


ただ、

夏希ちゃんの束縛が心地好かっただけ──



つむじやおでこに夏希ちゃんの柔らかな唇が押し充てられてこそばゆい…



二人の関係はまだまだ始まったばかり。



二人の出逢い


運命という偶然が呼び寄せたこの愛。


永遠の未知へと揺れる標(しるべ)がその先を指し示めしていた──



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あきゅろす。
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