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2P

「お前何か勘違いしてるだろ?え?──…藤沢 聖夜 20歳、ドラマ界高視聴率常にトップクラスの俳優…」

「………」


「ただな…お前はこれからガタガタっと落ちていく破滅型タイプだ──」

「──……」

挑発するように社長は俺の顔を覗き込む。
今の台詞は聞き捨てならない──

目を見開いて睨む俺を社長は鼻で笑ってる。


「たしかによ、お前は名子役“だった”──以前まではな…」

「何が言いたいわけ?」

「最後まで聞け」

チンピラ顔が真面目に変わる。
不貞腐れてそっぽを向く俺に面と向き合い社長はソファに深く座り直した。

「藤沢 聖夜──この俳優がこれから伸びるか落ちていくか……これからがこの業界での正念場だ」

「……」

「お前はもう子供じゃない──お前は確かに陰の努力家だ。負けず嫌いで色んなことに挑戦してそれを身に付けてきた。“藤沢はすごい”“台詞もすぐに覚える”努力したからこそ周りが名子役として長く認めてきた──

だがな……

これからのお前には大人としての演技が求められる──」

「──…っ…」




「大人の演技ってわかるかお前に?」

「………」

「今までみたいに子供や少年の心の葛藤、反抗、初々しい恋愛……そんな演技ではつとまらない。

どんなに台詞を覚えてもな、大人の役をやるってことは──汚なさ、がむしゃらさ、人間のドロドロとした部分、明らかに純真な子役の時とは違う演技と迫力ってのが必要になってくるんだよ」


「わかってるよそんなことくらいっ──」

「ああ、わかってる。わかってるよ。わかってるならいいさ──だが、お前にはそれが演じきれない…」


「……っ…んなことやってみないとわかんねーだろ?決めつけるな!」

「いやわかるね。お前にはなんにも経験がない」

肩を竦めてあしらうようにいう社長になんだか腹が立ってきた。

「できるよやればっ…」

「だからお前は勘違いしてるっていうんだよ!」

「……──どこがだよっ
今まで全部こなしてきただろ!?」

不良、優等生 苛められっこ 不治の病におかされた少年 心の病をもつ分裂症の役──




難しいって言われる役は一通りこなした上にどの役も世間での評価は高かった。

「それは今までの役だ──…」


「………」


「聖夜…しがみつくな」

「………」

「今までのお前は全部捨てろっ──ぜんぶ壊せっ」

「…っ…──」


「これから流れてくる役はな、やればできるって役じゃないんだよ…」

「やればできる役じゃないって意味わかんねー」

「ほらそこだ」


遠回しな言い方が益々ムッとくるっ


「これからは年追うごとに、人間らしい内面が滲みでてくるような役の仕事が増えてくる。表面的な感情じゃなくて、こころのそこからの演技だ──」

「………演じればできる…」


「できん…これからの役作りは経験がものをいう」


「………」


「じゃあ何か?お前に老夫婦の愛情とかわかるか?演じられるか?ん、どうなんだ?」


「なんでいきなり老夫婦なんだよっ…」


「例えだよ…老夫婦の役は老夫婦を経験してないと中々できん…おんなじことだ。年老いた親を持つ中年の心はそれを経験してないと演じれない…なら恋愛はどうだ?」


「………」


「大人の恋愛はガキの恋愛とはまた違う──純粋だけじゃない。エゴイズムな感情。思いやり。執着、犠牲……だから俺はお前にたらふく恋愛しろって昔から言っただろ」


「………たくさん、してきただろ…」


社長の言いたいことがなんとなく……

ようやく…わかってきた気がした……。



「軽い恋愛じゃない。まあ若い内はどうしてもヤれてラッキーくらいの感情になるのは否めんがな…若いなりに真剣な恋は必要だ」

「………」

「俺が経験して欲しかった恋愛てのは、嫉妬や怒り、泣くほどの思いとか切ないとか、口では言い表せない感情を心で感じる恋愛をし…」

「……してるよ──」

「………」

「充分に、してる……」

それこそ今…

逢いたくて苦しくて
たまに気持ちが一方通行で…

好きって気持ちがほんとに伝わってるのか未だに不安で──

かと思えば突然、好きだなんて言葉を沢山囁いてくれる…


あの人のことを考えただけで苦しくて切なくて

笑顔を思い出しただけで幸せになる…

独り占めにしたくても俺の言うこと一切聴いてくれなくて好き放題言ってやって翻弄して──

呆れるどころか益々夢中になっていく……


思い出しただけで想いが溢れる…──

「……っ…──」

やべ… めちゃめちゃ逢いたくてなってきたっ──


俺を見て目の前でニヤつくおっさんがなんか鬱陶しい…

「なんだ、んな面して仔猫ちゃんのことでも思い出したか?」

「なにが仔猫?虎だよあれは──」


「ふん、虎か──なら俺はその虎を大いに称えるな」

「……っ」


「名子役と言われ持て囃され続けた人形みたいなお前に命を吹き込んだ──

二週間足らずでお前にそんな顔をさせるなんてよっぽど一筋縄じゃいかないってな……」




社長は上半身を乗り出して俺を覗き込む。

「野生だろ?その虎は…」

そう囁いてククッと笑った。

「なんでわかる?」

「ああ…──はは、飼い慣らす筈が常に命の危険に晒されてれば人間、生きるのに必死にもなる。

人形のままのお前なら体のいいただのオモチャだ、手足もがれてバラバラになって飽きられてポイッ!──だからな……

つなぎ止めるのに必死だろお前も?」

「………」

さすが百戦錬磨…
悔しいけど当たってる──

ソファの肘掛けに肘をついて頭を支えながらチンピラのゴタクを聞いてやった。

「人間は必死に生きた時にこそ輝く──生きるんだよ!舞花とはどんな恋愛するかと思ってみたが、舞花じゃダメだったらしいな…」

「じじぃ最低ー…なに、けし掛けてんの?」

俺の為の捨て駒かよ?
どうりでやたら迫って着たわけだ──


「は、…俺は切っ掛けを提供するだけだ──あとの物語は当人達が勝手に作り上げる。まあそのお陰で舞花にも仕事が入った…プラスになる浮世話は大歓迎だな」

「何が浮世話?」

「とにかく…お前の仔猫ちゃんはまさしく救世主だな俺にとって…だから付き合いをやめろとは言わん」

「ふん…」


「てことで、本題に入るか……」

「…?」


その虎猫が自分の姪だとも知らず、社長は意味深に切り出した。



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