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2P

「今後の為に何枚か買ってきてくれ」

「了解!」

店の外に止めたママさんの自転車を借りてコンビニへ向かうあたしを窓ガラス越しに夏希ちゃんが見ている。

案の定電話が直ぐに掛かってきた。

「どこいったの?」

「………」

一歩間違えばまるでストーカー的行為だ。夏希ちゃんの愛情を感じながら思わずプッと笑えてしまった。

「君の為に買い物に出されたんだよ」

「え?どういうこと?」

「ん──取り合えず待ってて」

「……?」

「すぐもどるから」

「わかった」


なんだかこんな夏希ちゃんがカワイイ。

あたしは藤沢聖夜を知らないし

やっぱあたしの夏希ちゃんはこの柏木 夏希 この人一人だ。

色紙を買って店に戻るとマスターはあたしにサインを貰うように言ってきた。

自分の恋人にサイン?

なんか変な感じだ…

そう思いながら夏希ちゃんの席に向かい色紙とペンを差し出すと、あたしの出掛けた原因を知った夏希ちゃんは笑っていた。



色紙を受け取り慣れた手付きでサインを書く。

その表情はあたしの知らない夏希ちゃんだった…

あ、やっぱ芸能人だ──

ちとドキッとする反面、そこにはあたしの知らない夏希ちゃんが居て妙な寂しさも半分て感じ…

「はい」

「有難うございます」

色紙を受け取りつい手を差し出すと、夏希ちゃんはちょっと驚いて笑いながら握手してくれた。

「いつも見てます」

「うそ付けっ…俺に興味もなかったくせにっ…」

「見てるよ、いつも…」

冗談で不貞腐れた顔をする夏希ちゃんが、あたしの言葉にふと表情を止めた。

「ありがとう…」

なんだか照れた様に帽子のつばを下げる。

ああ、この顔はあたしの知ってる夏希ちゃんだ──

少しホッとしてあたしは貰った色紙をマスターに渡した。

「……ん?なに高田さん」

ちょこちょこホールの仕事をこなし、カウンターに戻ってきたあたしを高田さんが見ている。

「晶ちゃん、もしかして惚れられちゃった?」

「は!?…なにそれ」


「なんか彼の晶ちゃんを追う目が……」


「──……まさか?」

気持ち焦りを誤魔化し間を置いてそう返す。

さすが部下を持つ人だ──読みが鋭いっ

夏希ちゃんは芸能人だから存在に気付かれたら人目を受けるわけで…

その夏希ちゃんの取る行動は周囲にもバレてしまう──




たまにチラリと夏希ちゃんを見ると必ず目が合う…ってことは夏希ちゃんは確実にあたしを目で追ってるわけで……。

あたしはホールの仕事をしながら夏希ちゃんに“こっち見るな!”なんて念じていた。

「うーん…確実に追ってるなあれは」

高田さんの指摘にマスターまでもが夏希ちゃんの視線の先を観察しはじめていた。

なんだか視線があたしに集中してるんですが──!?


結果、そうなっちゃうわけで…


「芸能人の目を惹き付けるなんてこりゃ、いよいよデビューだな?」

なんてマスターは笑っていう。

「晶ちゃんは和らぎのアイドルだからな」

高田さんまでもがマスターに便乗している。

「なんか面白がってるね二人して」

「いやいや、真面目な話しだぞ、晶!来年は晶の写真で店のカレンダー作るかな。ははっ!」

「売れないからやめてよ」

「大丈夫、真っ先に買い占めるファンが確実に一人いるから!」

そうマスターが言った直後に笑っていた高田さんが突然コーヒーを噴き出していた。

まさかカウンターでこんな話が浮き上がってるとも知らず、夏希ちゃんはコーヒーカップを口に運んでいる。

暫くすると、店のドアが開きスーツ姿の男性客が訪れた。

その人に向かって夏希ちゃんは手を上げている。


マネジャーの楠木さんだ…

そう思いながら見ていると早速、追加注文の為にお呼びが掛かった。

「ご注文をどうぞ」

営業スマイルで受ける。

メニューのアイスコーヒーを楠木さんは指差した。

「これとオリジナルケーキのセットお願いします」


“和らぎろーるけーきセット”を注文しながらあたしを見ると、二度見を繰り返す。

「久しぶりだね──ここで働いてたんだ?」

自宅で何度かあったことのある楠木さんはあたしにそう声を掛けてきた。

「はい、健兄から聞いてなかったですか?」

見つめてくる楠木さんの視線を気にしながらあたしは注文を確認する。

ついでにブルマンの追加を夏希ちゃんから受けて、あたしはカウンターに戻った。

「お、早速ブルマンか。惚れられたのをいいことに売り込みか?荒稼ぎしだしたな」

マスターが茶化した。

「商売、商売!」

あたしは笑いながらそれだけ答えてブルマンを煎れる。

「通ってくれるかもな…」

マスターは顎に手を充てて楠木さんと話し込む夏希ちゃんを見ながら呟いていた。


「今度の新しい店の制服、ミニスカートにでもするか?」

「いいねそれ!」

マスターの企みに高田さんが素早く反応する。

「ちょ、それだけはやめてよ!?あたし大股なんだからっ」

「売り上げ上がったらバイト代あがるぞ」

マスターは半分本気の顔を見せていう。
小指のない手で顎を撫で、ニヤニヤと金の話に持ち込む表情は元の職業病を思わせる。

ママさんと一緒になるために極道から足を洗い“落とし前”とかいう義理と共につめた小指。

堅気になっても儲けの話になると使えるものは塵でも使ってしまえ、的な考えが沸くようだ。

半分真剣に企み始めたマスター。

ミニスカートなんかで仕事したら夏希ちゃんがなんて言うかっ

常連客になるどころか部屋から出して貰えなかったりして……

“行っちゃだめっ!!”なんて背後から抱きすくめる夏希ちゃんを想像する。

拉致監禁──

「あり得る…」

「あ、なにが?」

あたしの呟きにマスターが反応していた。

「そういや店でジーンズだし晶ちゃんの生足って見たことないな?」

「まだその話!?」


ブルマンをカップに注ぎマスターが入れたアイスコーヒーとロールケーキをトレーに乗せながら、高田さんに呆れて返した。



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