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「おいっ、大丈夫か?リオ!」
『・・・、んて・・・』
「リオ?」
『可愛いなんて、言われたら・・・どうしたらいいのか、わからないよ・・・っ!』

 許容範囲はとうに超え、リオは涙目でエースを見た。見るだけでも、今のリオにはハードルが高いが。恐る恐る、伺うように顔を向ける。 こんな涙目で、ゆでダコみたいな顔で見つめても。笑われるだけと、わかってはいる。 だけど、たとえ笑われても。何かしないと、間が持たなくて心臓に悪いと思ったのだ。 背の高いエースを、リオは見上げる。大きな帽子のおかげで、どうにも表情は見えないが。かすかに体が震えているのに気づき。リオはソッと声をかけた。

『エース・・・?』
「・・・、・・・!!」
『あの、私・・・何か変なこと、言った?』
「っ・・・、行くぞ!!」

 どこへ、なんて野暮なことは言わなかった。リオたちは今から、食事に行こうとしていたのだから。店に行くに決まっている。 何も言ってもらえないから、どうすることも出来ないので。リオは大人しく、手を繋がれたままエースと一緒に道を進んでいく。 だけど、おかしなことに。二人で行こうと決めていた店を、通りすぎてしまった。エースにそれを言うも、足は止まらない。それどころか、さらにスピードが増していくから。リオは必死になってついていく。 どうにか止まってほしいところだが。何を言っても、今は止まりそうにない。だから大人しく、エースの後をついていった。 ・・・途中、二人のその光景を目撃した店の人たちが。からかったり冷やかしたりするのだが。 気づいたのはリオだけで、恥ずかしがったのもリオだけで。エースは、何をそんなに急いでいるのか。周りの声には全く気づいていない様子だった。
 ーーーーーー歩いてしばらく。人里離れた山裾の辺り。桜の森と呼ばれた、この島の隠れた名所。綺麗な桜の木囲まれて、空も大地もピンクに染まったその場所に。二人は到着していた。 そのあまりの美しさに、リオは言葉を失いただただ上を見上げる。はらはらと舞い落ちてくる、たくさんの桜の花びらを体で受け止めながら。静かに桜を眺めた。

『綺麗・・・』
「あのな、リオ」

 そこで初めて、エースが口を開いた。ここは穴場で、二人以外誰もいない。その事実に今さら気づいたリオは、急に緊張を隠せなくなった。 今までは、エースに引っ張られる形で。ついていくのに必死で、何も考えられなかったが。あらためて思うと、なんだかマズイ気がする。いつもと違う状況で、リオはかなり焦っていた。 何が始まるのか、何があるのか。全く予想がつかない。だってリオは、経験不足が否めない世間知らずだ。いくら自分に魅力を感じられなくても、相手がエースでも。一人の男に違いはない。 考えすぎかもしれないが、緊張と疲れが一気に押し寄せて。リオの思考回路は、めちゃくちゃになっていた。 自意識過剰、自意識過剰、自意識過剰。心の中で3回唱え、未だ自分の手を掴んだままのエースに向きなおった。

「その・・・なんだ。リオは、あの小船で航海してンのか?」
『え、あ・・・うん。そう、なるかな?』

 実際は航海なんてしていないが。エースは扉の秘密を知らないので、ここは話を合わせる。 すると、とたんに眉を寄せ真剣な顔になったので。本当にどうしたのかと不思議に思っていると。

「なら、俺の親父の船に乗らないか?」
『へ!?』

 いきなりのその申し出に、リオは思わず変な声が出てしまった。


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あきゅろす。
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