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『わ、わかった!わかったから、お願いだから抱きつかないで!!』
「・・・そんなに嫌か?」
『嫌、っていうか』

 いつの間にか、リオは壁際まで追いやられていて。迫られて。どうしたことか。さっきまで、しどろもどろだったエースとは別人のようで。 どこか強引で、だけど嫌な感じじゃなくて。拒みきれない優しさがにじみ出ていて。マンガで見た、あの眩しい笑顔でジッと見られ。リオは思わず、まじまじと見つめ返した。 時が経つにつれ、頭が冷静になってきたのだ。それで本物を、こんなに間近で見られたというミーハー心から。こんなに大胆な行動に移れたという訳だった。 リオのガラス玉の瞳が、エースの姿を映す。そのエースが動かないことから、今度はリオがエースに迫った。

『あなたも、背が高いのね』

 ロシナンテも、クザンも。果てはガープやセンゴクも背が高かった。この世界の人たちは、どうやってこんなに背を高くすることが出来るんだろう? あと10cmとは言わないが、せめてもう5cmは高くなりたかった。
人知れず、リオが思い悩んでいることの1つだった。

「っ、そう・・・か?普通だろ」
『普通って言えることがうらやましい。いいな〜』
「俺みたいなのは、珍しいのか?」
『ただ私の周りにいなかったってだけ。私より少しだけ高いって人がほとんどだったけど、高い人は高かった』

 たとえば、巨人族の身長を少しでいいから分けてもらえる能力とかあればいいのにと。
ほんの少し、ほんの少しだけ考えたことがあった。 でも父親が、小さい方が可愛いと言ってくれたことから。小さくても、別に構わないと思うようになった。 初恋を捧げた父親からの、『可愛い』という魔法の呪文のおかげで。今ではなにも気にしていない。だけど、やはり背の高い人を目の前にすると。呟いてしまう決まり台詞があった。

『欲しいな〜・・・』
「は?」
『あなた(の身長)が欲しい』

 無意識ゆえに、たちが悪い。しかもすでに、冷静ではいられていないエースが。こんな台詞を聞いてしまったなら。もう、収まりがつかなかった。

「・・・そんなに欲しいのか?」
『欲しいけど、高望みはしないんです』
「あんたが望めば、今この瞬間から手に入るぜ?」
『えっ!?』

 それは、ワンピースの世界特有の不思議な力か何かで背を高くするということか?そんなことが可能なのか? 誰しもが、ここはグランドラインだから何でもアリと言っているぐらいだから。本当に、何でもアリなのかもしれない。

『でも、やっぱりいい。今のままで充分だから』

 父親が可愛いと言ってくれた、今の自分を変えたくない。このままでいいと言ってくれる人が、きっと現れるから。今の自分を好きでいなさいと、母親が言ってくれたから。

『変なこと言ってごめんね?』
「いや、・・・ま。もう少し時間をかけねーといけねぇな」
『ん?何?』
「こっちの話だ。そういえば、今思い出したんだけどよ。俺たち、まだ自己紹介してなかったな」
『あ、本当!すっかり忘れてた・・・』

 リオは元々、エースのことを知っていたので。聞かずともわかっていたから、名前を質問するのをうっかり忘れていたのだ。 エースもエースで、目の前のリオと話すのに精一杯で。名前を聞くことを忘れていた。 道を歩きながら、二人で同じように笑いあう。仲むつまじい二人の様子を、白ひげの仲間たちが遠くからニヤニヤ顔で見つめていた。

「俺はポートガス・D ・エースだ」
『私はリオです。荷物、ありがとう。私の船はここだから』

 話をしながら歩けば、あっという間で。
リオたちは、船を停泊させている港に到着した。 そんなに時間はかからなかった、なんて考えながら。エースから荷物を受け取り、船の扉を開けた。

『(よかった、ちゃんと繋がってる)』
「あのさ、リオ」

 リオが中に入ろうとしたその時。エースがリオの名前を呼ぶ。初めて彼が呼んだ自分の名前を聞いて。一瞬、なぜか固まってしまった。 呼ばれるとは思っていなかったからか。それとも、『あの』エースに名前を呼ばれたからなのか。どちらにしても、今はエースに呼ばれている。呼び止めたエースの方に振り返った。

『どうしたの?』
「今夜、これから暇か?それとも疲れてるか?もう休むか?」
『え?あの、暇だし。疲れてないから、どこかの店で何か買って出かけようと思ってたけど・・・』
「なら、さ。俺と食事しないか?今日会ったのも何かの縁だしよ」
『いいの?』
「むしろ俺の方が、まだリオと話したい」

 リオの空いた方の手をしっかり握り、笑顔を見せるエース。そんな彼の笑顔を拒める人なんて、誰もいない。


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あきゅろす。
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