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 自分でも、予想外の展開になった。笑顔で接客を初めてしばらく。なんと、辺りを歩いていた人々が一斉に足を止め。リオの元へリンゴを買いに来たのだ。 接客をして知ったのだが。ここのおばあさんが売っているリンゴは、この界隈では有名なリンゴだったそうで。 おばあさんが足を悪くしてからは、なぜか味が落ちたという噂が広まって。自然と足が遠のいていたらしい。 でも、リオが愛嬌のある笑顔で接客したことにより。遠のいていた人々を、集まらせたという訳だった。

「いや〜、こんなに可愛い子が看板娘としてこの店にいるなんて知らなかったな〜!」
「ばあさん、あんたの孫かい?いい子だね〜店を手伝うなんて」
「いえね、好意で手伝ってくれてるんですよ。本当にいい子で、助かっているんです」
『ありがとうございました、またご贔屓にお願いします!』

 袋にたっぷり入ったリンゴを手渡し、ようやく一段落ついたところで在庫チェック。 あと、3箱。されど、3箱。けれど7箱も売れたのだ、あと一息。そう思っていたのだけれど。おばあさんが、これだけ売れたら充分だと言ってきた。 しかし、ここまできたらもうひと踏ん張りだ。もう夕方になったが、あともう少し頑張ろう。そう思って、振り返った時だった。 誰か来た、そう認識したらあとは条件反射だ。夕陽が辺りを照らし、相手の顔は見えないが。リオはリンゴを手に持ち、その人に声をかけた。

『美味しいリンゴはいかがですか?』

 リンゴを差し出し、相手に笑いかける。すると、どうしたことか。相手は固まったように動かなくなった。 なんだろう、どうしたんだろう。もしかして、いきなり病気にでもなってしまったんだろうか?それとも、夕陽が眩しくて商品が見えないからこちらを伺っているとか?

『あの・・・お客様?』
「・・・・・っ・・・!!!」
『どうかなさったんですか?』
「っ、欲しい・・・!!」
『はい?』
「あんたの全部が、欲しいんだっ・・・!!!」
『え、全部・・・ですか』

 そんなに美味しそうに見えたのか、このリンゴ。全部ということは、在庫全部という意味でいいんだろうか。 そうなれば、こちらとしては大助かりだが。これだけ買ってくれるということは、船乗りなんだろうか?いずれにせよ、間違いがないように確認はしておかなければ。

『本当に、全部でいいんですか?』
「い、いいのか?」
『ならいいんですね。お買い上げ、ありがとうございます!おばあさん!在庫、全部売れましたよ〜!!』
「は?在庫??」

 奥にいたおばあさんに、リオが声をかける。在庫が全部売れたと聞くやいなや、それこそ大げさに驚いて。リオに何度も、感謝の言葉を告げた。 筋肉痛の傷みも忘れ、最高の達成感を得たリオは。それこそ今までの中で一番最高の笑顔を見せたまま。外で待っていたお客に声をかけた。

『お客様、在庫は全部で3箱と3つございますが。運搬する方はいらっしゃいますか?』
「は?!え、・・・そういうことか」
『あのー・・・』
「いや、なんでもない。そうだな・・・人を呼んでくるから、少し待っててくれ。そん時に金も払う」

 辺りが暗くなり、ようやく相手の顔が見えやすくなったところで。灯りを付けて、最後のお客の顔を確認した。

『かしこまりました。お待ちしておりますね』
「あ、あぁ。すぐに来るからな!」

 そう言って、一目散に港に向かって走っていった彼。そこでリオは、大きく息を吐き出す。そつなくこなせて、不自然にならなくて、笑顔を浮かべられて本当に良かったと。安堵の息を吐き出したのだ。 もし、少しでも違和感のある態度を見せていたら。あらぬ疑いを持たれていたかもしれない。 彼は海賊だ。いつも危険と隣り合わせで、仲間の命を守る義務と責任を背負ってる。 全部が全部疑ってかかっている訳じゃないというのはわかっている。だけど、あんな素敵な人に疑われたら悲しい。 怒りを、殺意を向けられたらと思うと。耐えられなくて、どうしようもなくなってしまう。 エースとは穏便に、友好的に関わりたい。普段の彼ならば、人懐っこくて優しくて面倒見が良くて。
強くて、たくましくて。弟想いの素敵な人なのだ。 マンガでしか見たことがないエースしか知らないリオだが。それでも、あの太陽のような笑顔は嘘じゃないと知っているだけ。彼のことが、誰よりも身近に感じられるのだ。


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