第弐話―02―
「みんなちがうの!私の話を、」
聞いて。そう言い掛けて、莉乃は口を閉じた。
――否、口を閉じざる終えなかった。
「ま、るい……?」
「丸井!?」
一瞬の内にして、赤色の髪の毛の少年――丸井が、壁に向かって吹き飛んだ。
ほんの、1秒。
瞬き一回の間に。
丸井の体は壁へと吹き飛ばされていた。
――正確には。
・・・・・
アリスの手によって、壁へと叩きつけられていた。
「ぐぅぅ……」
苦しげに声を漏らす丸井。
慌てて周りにいた少年達がアリスを止めようと、2人にかけよる。
いや、駆け寄ろうとした。
だがそれはアリスの何の感情も宿してない冷酷な瞳に睨まれ、叶わなかった。
「…っ!」
思わず、駆け寄ろうとした全員が足を止める。
――駆け寄っちゃいけない。
――逆らってはいけない。
本能が、そう告げていた。
「……何が、大した事無いって?何が大した事無いの?ねぇ、あーちゃんに教えてくれる?」
静まり返った廊下に、アリスの声が、異常なまでに響き渡る。
その声に、その場にいた全員の頬に、冷や汗が伝う。
――怒らせて、しまった……
――開けてはならない最大の禁忌の箱を、パンドラの箱を、開けてしまった……
途轍もない後悔の念が、その場に渦巻く。
――だが、気づいた所で、もう遅い……
パンドラの箱は、もう、開いた。
「…あーちゃんを、侮辱するのは別にかまわないよぉ?でもねぇ……特別科を侮辱することは、許さない」
ニヤリと、笑うアリス。
だがその瞳は、全くといっていいほど笑っていなかった。
「きゃはははははははは!!」
甲高い、アリスの笑い声。
その声に、背筋がゾクリと震えた。
アリスはひとしきり笑うと、ゆっくりと閉じていた瞳を開いた。
その表情に、いつもの笑みは無い。
「――これより、特務生徒会を、執行し……」
「アリス?」
『!?』
低いテノールの声が、その場を揺らした。
勢いよく声のした方を見ると、そこに立っていたのは……
「っ響!!」
アリスの最愛、響だった。
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