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妄想。
*
流血とか生死とかあるので、苦手な方はリターンしてください。





簡単な説明。
一番目アリス:真田
二番目アリス:柳
三番目アリス:幸村
四番目アリス:柳生/仁王

あるところに小さな夢がありました。誰が見たのかわからない。それは本当に小さな夢でした。

小さな夢は思いました。『このまま消えていくのはいやだ。どうすれば人に僕を見てもらえるだろう。』

小さな夢は考えて考えて、そしてついに思いつきました。人間を自分の中に迷い込ませて世界を作らせればいいと…。

***

「む…、ここは……。」

黒髪の彼がたどり着いたのは長い長い道の続く森の世界。道というには余りに荒れた道を怪訝そうな顔で歩いてゆきます。

「すっげぇなココ。」

彼の横には心知れた友人。スキンヘッドの彼は見た目こそ恐面でしたが、とても頼りになる男でした。

二人は森の奥へ奥へと進んでいきます。深く暗い森の奥へ。時に、道を塞ぐ茨を剣で切り捨て。道に育つ木々を切り捨て。切り捨て…。人間たちさえ切り捨てて。

それでも彼は気付かないのです。彼の通った道が真っ赤に染まっている事にも、その切り捨てるモノがなくなっていく事にも。隣にいる友人に笑顔が消えていた事にも。

そして、ついにその時はやってきます。

「……なっ……!」

腕に絡み付く蘿。森からの怒りという意思をしっかりと受け継いだかのような。みるみる内にそれらは彼を捕らえて、森の奥に閉じ込めました。まるで、彼が罪人だと言うように。

「サヨナラだ。一番目アリス。」

スキンヘッドの彼は笑う事なく彼に告げます。さらにスキンヘッドの彼は姿を消してしまいました。しかし彼には何の事だかまったく分かりません。そう、人間を次々と切り捨てた事を彼は理解していなかったのです。彼が既に正気を失っていたからか、もしくは彼に何かが起きていたからか。それは誰にも分かりません。
閉じ込められた中、誰に知られる事なく彼は静かに目を閉じました。抵抗などすることなく、静かに……。


***


「何歌ってるんスか?」
「…いや。」

短い綺麗な黒髪の彼は年下の癖の掛かった黒髪の少年と荒れた世界にいました。暇さえあれば歌を歌う彼。歌を歌えば歌うだけ、世界に『何か』が生まれるのです。そして彼はまた歌い始めした。

彼の低めの声は心地よく世界に響きます。彼がひとつ音を造り出すと、世界にひとつ芽が生まれます。またひとつ。またひとつ。植物の芽はもちろん、人間になる芽、動物になる芽、様々な芽が生まれて、世界は鮮やかになっていき、れっきとした国が出来ました。

国の人々も動物も草木も皆、彼を愛していました。彼の歌に心惹かれ、感情を覚え、生きていたのです。

しかし、彼は他にも造り出してしまったものがありました。
嫉妬、怒り、憎悪。徐々に狂い始める美しかった世界。

それはもしかしたら、彼の小さな哀しみからだったのかもしれません。創成主としての、崇めるような愛ばかり受けてきた彼は、友人のように身近に感じる愛を一度も受け取った事などなかったのです。

いつしか彼は歌わなくなってしまいました。



「あっれ。そういやぁ最近歌わないですよねー。なんかあったんスか?」

少年は気さくに彼に問い掛けます。

「そうだな。しかし、お前には関係のない事だ。」

一度少年に視線を向けた彼でしたが、直ぐに視線は愛用のノートに向いてしまいました。

かちり、と無機質な音。次いで小さくも響く爆発音。少年の手には黒く冷たい銃が一挺。
撃たれたと彼が悟ったのは少ししてから。

「それじゃあ困るんスよねぇ。俺たちが。」

彼の歌声の代わりに非常な笑い声が響く。彼からその声は段々と遠くなってゆきます。

「バイバイ。二番目アリス。」

笑いに紛れて聞こえた声。しかし彼には聞こえない。彼はというとぽたりぽたりと落ちる赤を手で受け止めて、しかし受け止めきれぬ赤が指から零れ落ちるのを見ていました。

落ち行く血液は、地面に咲き誇る花たちの一つに落ち、溜まります。そして真っ赤な花が出来たころ、彼は静かに瞳を閉じました。

***


「…もっと綺麗に咲いてくれると嬉しいんだけどね…。」

青髪の美しい彼は彼に似合うような美しい世界にいました。彼自身が育て上げた美しい花たち。城の庭の花畑はいつも綺麗に咲いていました。

「それでも十分だと思うんだけど。」
「まだまだだよ。」

後ろから話し掛けるのは赤髪の男。クスリ、と小さな笑みを返してまた彼は花の手入れを始めます。

「んじゃあ誰かに命令でもすりゃあいいじゃん。」
「………。」

ピクリと彼の動きは止まりました。眉をしかめて赤髪の男を見詰めます。この国では彼が命令すればどんな事でも国民が従ってくれるのです。花の手入れをしろ、と言えばきっとその人間は懸命に手入れをしてくれる事でしょう。しかし、彼は気付いていました。その行為の異常さに。

なぜなら、彼が死ねと言えば国民は躊躇いなく死んでゆくから…。それは王としての権限を超えた異常な権力。

「……出来れば、誰にも命令はしたくない。」
「ふーん。」

赤髪の男の細められた紫の瞳が青髪の彼を捕らえます。貧欲なヤツだ、と口元が動いた事は誰も知りません。

「…もう夢は飽きたってか?アリス。」
「…………っ…!!」

トーンの下がった男の声に不思議そうに男を見返した瞬間、彼に異変が起きました。荒れる呼吸、定まらない焦点、ガタガタと震えます。

「……な、に…‥?‥っ…‥ゃ…、やめろっ…ーー…!」

白い病室。響く機械音。くる日もくる日も落ちる点滴の雫だけを見つめて絶望の毎日。体が言うことをきかなくなっていくのが分かる感覚。

彼の瞳にはそんな自分の姿が映ります。実際にそんな彼は存在しないのに、捕らわれたように──いや、そう言ってしまうと語弊があるかもしれません。『この世界に』そんな彼の姿は存在しない、と言った方が正しいでしょう。

「ったく。めんどくせぇ。お前らは与えられた仕事だけしてりゃあ良かったのによ。」

人を切り捨て、歪んだ世界を造り上げ、全ての人間を支配する。与えられた罪人という運命を受け入れるべく招かれた彼ら。夢という不思議な国に。

「……は、ぁ…‥っ‥。」
「じゃあな。三番目アリス。」

しかしそれを受け入れなかった人間には用はありません。見える幻覚という現実に体を震わせる彼を見下しながら、赤髪の男は姿を消してしまいました。

花畑でうずくまる彼。この世界にはあり得ない幻覚。分かっていても理解出来ない。なぜなら確証などないのですから。

彼は堪えられなかったかのように短いナイフを取りだし、涙を流しながら瞳を閉じました。

***

「……エグいのぅ…。」
「そうゆう事を言わないでください。」

銀髪の彼と茶髪の彼は不思議な国を辿っていました。真っ赤な道。所々に落ちているその赤を作る原因となった残骸たち。

「……ん?」
「……分かれ道、ですね。」

彼らは二つの道の分かれ道に着きました。片方は真っ赤な道の森へと続く道。もう片方は赤も残骸もない国へと続く道。

そんな分かれ道に遭遇したら行く方向など決まったも同然です。彼らは迷う事なく国へと続く道へと足を進めました。


しばらく歩くと大きな薔薇の木がありました。大分歩いて疲れきっていた彼らは一旦そこで休憩する事にしました。国へと向かってもなかなか国へたどり着けません。

「どうしたらあそこに行けるんですかね。」
「分かってたらとっくにそうしてるぜよ。」

二人はゆっくりと草の上に腰をおろしました。そして近いようで遠い白い城を見つめます。もしかしたら一生たどり着けないのかもしれない、そんな思考が二人の中で芽生えます。

ぼーっとしていた彼らですが、ふと、茶髪の彼が視線を落としました。それに習って銀髪の彼も視線を落とします。

「…これだけ赤い………?」

真っ赤な薔薇が青い薔薇に紛れて一輪。どうして気付かなかったのでしょう。薔薇の木の下にはまた薔薇が一面に咲いていて、その中の一輪が主張するように咲いていたのに。

「なん?あれだけ赤いのう…。」
「…ですね…。」

顎に手を当てて考える茶髪の彼。互いに目を見合わせて数秒。そして、再びその赤い薔薇を見直した瞬間、ゾクリとしたモノが互いの背中を走りました。

薔薇の花弁が枯れるように落ちる……否、薔薇から赤いものが落ちてゆくのがわかったからです。それはまるで赤い薔薇が散る様に、ぽたり、ぽたりと。


真っ赤な血が



落ちる。



「もう、行きませんか…。」
「あ、あぁ…。」

震える声を振り絞ります。なぜ、花から血が落ちているのかは二人にはわかりません。わかる事は、とにかくここにはいてはいけないということ。

二人は走り出しました。離れ離れにならないように手を繋ぎ、城を目指してただただ走りました。


そして、


彼等はついに城についたのです。ひとつ息をついて、その世界に目を奪われる二人。

城の周りには鮮やかな花々。先ほどの気味の悪い薔薇ではなく、赤や黄色や緑のちゃんと彩りのある花たち。やっと、二人は表情を柔らかくしたのです。

「なんだったんですかね…あれは…。」
「さぁ、なんだったんかのぅ…。」

出来ればあまり考えたくない事でした。せっかくあの悲惨な赤い道を逃れたと思っていたのに、休憩をとった場所にあんな気味の悪い花があるだなんて。

ふるふると首を振って、茶髪の彼は顔を上げました。

「すみません。せっかくココについたんですから、もっと楽しいことを考えましょうか。」
「…………。」

柔らかい笑みを向けて歩いて行った彼の後ろ姿を銀髪の彼は見つめ、切なげに眉を潜めました。そして、茶髪の彼にそんな表情をしたことを悟られる前に何食わぬ顔で後ろをついてゆきました。



城に入っていった二人。城には様々なものがありましたが、たいして二人の興味をひくものなどありませんでした。

しかし、大きな庭にそれはありました。きれいな花々がある中、隠すように一枚のトランプが。見つけたのは茶髪の彼。銀髪の彼はまた別の場所に目を奪われているようでした。

地面に刺さっていたナイフ。それに縫いつけられるようにあったハートのAのトランプ。そっと、ナイフを抜き彼はトランプを取りました。

「…………っ。」

それの裏を見たとき、茶髪の彼は息をのみました。そこには赤い文字で『  は一番近くにいる。気付かせるな。  だと。  で される。』と書かれていました。すべての文字を読むことはできません。しかし、良いことではないのは明らかでした。

「なんかあったか?」
「……!…え・あ……いえ。何も…。」

さっとトランプを隠して首を振る茶髪の彼。




まさか、



いや、でも。



そうとしか考えられない。



「ほんに、ここには何にもないのう。人もおらんし。」



「…………ええ…。」


歯切れの悪い返事を返しながら、きょろきょろとあたりを見回す銀髪の彼を見やります。ぎゅっと握っていたナイフを強く握りしめます。






普段あるものがなくて、普段ないものがある。


人間がいなくて、血だけがある。


つまりそれは、いた人間は全ていなくなってしまったということ。

消えたのか、消されたのか。


きっと後者だろう、と気づいてしまったのです。彼は。


そう、四番目アリスである、彼は。




「……すみません…。」

握っていたナイフからは滴る赤。眼を大きく見開いた銀髪の彼は状況が分からずに、ただ広がる背中への鈍痛に息をつめます。

「本当は、こんなことしたくなかった。」

言い訳でしかない言葉を彼は紡ぎます。

「出来ることならば、一緒にこの世界にいたかったんです。」

ガタリ、と崩れた銀髪の彼を受け止めるように抱きしめて、軋む胸への痛みに表情をゆがめます。

「……そう、できることなら…、そう思っていたんです。」

愛している人の傍で、永遠の時を過ごしたいと。
それでもアリスは別の場所を見つめていて、絶対に振り向いてはくれませんでした。

現実から解放してあげたというのに、誰ひとりとして、それを覚えてなどいません。夢をいちいち覚えている人間などそうそう居ないのと同じです。

人を叩きのめすという事の深刻さ。
様々なものを作り出すということの重大さ。
命をかけた病の苦しみ。

しかし彼は知っていたのです。知っているからこそ。

「すまん…の。」
「いえ。さようなら、四番目アリス。」
「…あぁ。」

四番目アリスは、彼の腕の中で静かに目を閉じました。

そして、茶髪の彼は、二度と目を覚しませんでした。






あるところに小さな夢がありました。それは本当に小さな夢でした。

小さな夢は思いました。『このまま消えていくのはいやだ。どうすれば人に僕を見てもらえるだろう。』

小さな夢は考えて考えて、そしてついに思いつきました。人間を自分の中に迷い込ませて世界を作らせればいいと…。


その夢を見た彼は、仲間たちを次々と自分の夢の中に招待しました。しかし皆、感覚を失い、その世界を嫌い抜け出したいと思ってしまうのです。彼は彼らを夢の中で殺します。殺すために刺客として出した彼ら彼の手により殺してしいます。

そんな中、一人だけその世界を抜け出したいと思わない人間がいたのです。それは夢を見た彼が一番愛していた人でした。

彼はその人間と一緒に夢の中で過ごしていました。夢の中にいる間はもちろん、現実世界にはいけません。人間は思っていました。『こいつが寂しいと思うのならば永遠にここにいてやろう。』と。そして彼も人間がそう思っていることを悟ってしまいました。

こんな優しく愛おしい人間を、どうして夢の中に閉じ込めていられるのでしょうか。

彼は人間を自分の手で殺してしまいます。そして、誰に殺されることのない彼は、永遠に夢の中で生きてゆくのです。

仲間たちの作り上げた美しい世界の中で永遠に。







あきゅろす。
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