遠回りな未来
未来へ歩き出そう N
どれくらい、そうしていたんだろう。
先に動いたのは皐貴だった。
「…帰ろうか」
そう言って笑いかけ、抱きしめていた腕を離した。
潮が引くように温もりも離れて行く。
「うん…」
掴みたいのに掴めない…そんなもどかしさを感じて、少し寂しくなる。
明日もテストがあるし、早く帰らないといけないんだけど、でも…。
少しでも一緒にいたい。
僕の気持ちを知ってか知らずか、皐貴はすぐ傍の自動販売機に向かって行った。
そこで飲み物を買うと、僕に1つ投げてよこした。
「わっ、危ないなぁ…」
思わず文句が出たけど、これを飲み切るまでは一緒にいられるって嬉しくなった。
「先輩の奢りなんだから、文句言うなって」
僕の文句なんて、皐貴はさらりと流して缶ジュースに口をつけた。
喉が乾いていたのか、皐貴の豪快な飲みっぷり。
ほんっと…何もかも絵になるなぁ。
普通に売ってる缶ジュース飲んでるだけなのに。
密かに見とれている間に、皐貴は缶ジュースを飲み切ってしまう。
そのままゴミ箱に空き缶を投げ入れた。
ゴミ箱の中から軽快な音が聞こえた。
せっかくもらったんだし、早く飲もう。
僕も缶ジュースのプルトップを開けた。
一口飲むと、冷たいジュースが体の中にしみ込んで来て目の覚める感じがした。
「輝希」
呼ばれて顔を上げると、皐貴はうーんと伸びをしているところだった。
「海、また行こうな」
あの日は…僕にとって激変の日だった。
かなり遠回りをしたけど、僕は自分の気持ちに気付く事ができた。
やっとスタートラインに二人で立てた。
これからも一緒に歩いて行きたい…そう思うんだ。
「うんっ」
僕はそんな想いを抱いて、自然に笑顔がこぼれた。
〈了〉
[*前へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!