遠回りな未来
未来へ歩き出そう M
「………戻りたかったら、戻ってもいいんだぞ」
「え…?」
不意に告げられた言葉に、何を言われたのかわからなかった。
驚きで、あれだけ流れていた涙も止まってしまう。
「何、て…?」
「だから…ほんとは戻りたいんじゃないのかって…」
その瞬間、悔しいというか悲しいような…そのふたつが入り交じった感情が僕の中で小さく音を立てた。
僕が真幸先輩のとこに戻りたいんだって勘違いされてる事が…一番近い表現で言うと腹立たしかったんだ。
だって、皐貴が言ったんじゃないか。
自分の気持ちは真剣だって。
だから、僕もその想いを信じようって思ったのに…。
気付いたら、皐貴を突き飛ばしていた。
いつもだったらよろめきもしないくせに、余程不意打ちだったのか皐貴は数歩よろめいていた。
「じゃあ戻っちゃうんだから!! 皐貴なんかもう知らないっ! 勝手にすればいいでしょ…、っ!?」
さすが普段から鍛えてるだけあって、皐貴はすぐに体勢を立て直すと、僕の腕を掴んだ。
喚き散らす僕を黙らせるかのように、背中を抱き寄せて唇をふさいて来た。
「…っ…んん…っ」
文句も全部、キスでかき消された。
力でかなわない事も腹立たしくて、精一杯抵抗した。
だけど、いつも如く僕はあっさり力負けしてしまう。
力が緩んで、うっすら目を開けると皐貴と目が合った。
「ほんとに…戻んのか…?」
そう言う皐貴はすごく切なそうで、そんな眼差しに弱い僕はすぐ俯いてしまう。
まるで、さっきの言葉とは裏腹に引き留めるような眼差しだったから。
皐貴の問いに答えられないままでいると、ふわっと抱きしめられた。
「…行くなよ」
耳元で囁かれた言葉。
少し掠れた、つらそうな声…それは確かに皐貴の本心だったように思う。
僕は皐貴に背を向けない事で、その返事を示した。
こんなつらそうな人を置いて行けない。
それに何より、僕が皐貴の傍にいたいから…。
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