遠回りな未来
未来へ歩き出そう D
戻ろうとしたら、またも皐貴は僕の腕を掴んだ。
ちょっとだけ構えちゃったけど、皐貴の指が髪を掠めて行っただけだった。
「ゴミついてる」
あまりに僕がビクビクしていたのか、皐貴は苦笑している。
でも僕は見ちゃったんだ。
さらっと僕の髪を指で掠めた時の皐貴の真剣な表情を…。
『本気の気持ち』なんて、それで全部感じてしまう。
そんな落ち着かない気持ちを抱えたまま、慧のもとへ戻る。
「おかえりー。もうすぐホームルーム始まっちゃうよ」
「う、うん」
何ともぎこちない僕の反応。
皐貴が痛いほどの視線を向けてたのも知っていたから。
「じゃあな。佐々原も、頼んだぞ」
教室に入らなきゃいけない時間も近付いていたから、皐貴は軽く手を挙げて踵を返す。
「は〜い」
僕と違って、慧の返事のキレの良い事。
皐貴は慧の告白とか全然気にしてないみたいだったけど、慧はそれでいいのかな…。
そりゃ憧れの人に気まずい思いをされて、避けられるよりはいいかもしれないけどさ。
多分、まだ憧れ以上の気持ちを抱いてるかもしれない慧の想いはどうなるの…?
すごく気にはなるけど、僕が訊くのは厚かましいよね。
慧がふられた原因も元を正せば僕のせいなんだから…。
「輝希? 行くよ?」
はっと我に返ると、慧が不思議そうな表情をして僕を見ていた。
いつもと変わらず僕に向けられる視線に、奇跡のようなものを感じた。
だから、慧がくれたこの想いを大事に育てて行こうって、そっと心の中で決心した。
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