遠回りな未来
交錯 H
それを見て、もう一度笑った柚原先輩は不意にくしゃっと僕の頭を撫でた。
あの日の事を思い出して、僕の心はほのかにあったかくなる。
「あんまり廊下で走るなよ? じゃあな」
どこかへ行く途中だったのか、柚原先輩は手を離すと歩いて行った。
…ほんとに、情けない。
思えば、あの日から僕は柚原先輩に心配ばかりかけてる気がする。
さっきぶつかって、どっか捻ったりしてないかな…。
あ、そういえば慧…。
「け…、うわっ!」
呼ぼうと振り返った瞬間、飛びつかれて頭を撫で回られた。
さっきのそっと触れたのなんか嘘みたい…まるで、犬かなんかを撫でる感じに似てる。
「ちょ…っ、何!?」
「この果報者! 頭なんか撫でられてっ」
ああ、そういう事か。
僕を追いかけて来て、一部始終見てたんだ。
あまりに僕がびっくりして放心状態だったから、知り合いだなんてわからなかったらしい。
正直ほっとしていた。
知り合いだって事も、ましてや柚原先輩が僕を好きだと告白した事も、慧には絶対に知られたくない。
やっぱり今の僕は、慧を一番に考えたいから。
慧が傷付く姿を見たくないから。
だから、柚原先輩との事はそっとしておこうって思うんだ。
さっき見かけた人が本当に真幸先輩なら、僕はまず自分自身の気持ちに決着をつけないといけないんだから。
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