遠回りな未来
交錯 F
「うん…うんっ…っ」
静かな言葉の中に込められた意味を痛いほど感じて、返事をする声もままならない。
こみ上げる思いを抑えようとしている様子を見て、慧はそっと僕の頭に手を置いて撫でた。
「ほら、わかったら教室戻ろ? 昼休みなくなっちゃう」
現実味のある言葉に、僕の感情も落ち着いて来る。
昼休みがなくなるのは嫌だったから、歩き出した慧に続く。
時間は昼休みを少し過ぎたぐらいだったから、もちろん上級生ともすれ違う。
…やっぱり視線は気になってしまう。
普通に素通りする人もいたけど、大多数は刺さるような視線を送って来る。
つーか、慧は気にならないわけ?
いくら僕に関してそういう情報を持ってるとは言え、みんなの視線の先には僕だけじゃない…慧だって見えてるんだ。
慧にだって好意的な人はいるかもしれないじゃないか。
僕だけこんな居心地の悪さを感じてるかと思うと、ちょっとズルイ気がする。
それとも、本命がいるから気にならない?
柚原先輩? それとも…。
「僕の顔に何かついてる?」
探るように見ていた視線を最初から感じていたのか、慧が苦笑しながら訊いて来た。
気になるな、こんな落ち着き払ってる慧の本命が本当は誰なのか。
「あ…あのさ、慧の…、!」
えーい、訊いてしまえ!って意を決して口を開いた僕は、途中で凍り付いた。
「…輝希?」
慧の向こうに見えた一瞬のその姿に動けなくなった。
視界の端に捉えたのは一瞬で曲がり角に消えてしまったけど、気持ちを揺るがすには十分だった。
僕は反射的に駆け出していた。
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