遠回りな未来
告白 K
「輝希って…そう呼んでもいいかな。おまえの事、好きだ…」
「…え?」
突然の告白に目を開いた。
まだ柚原先輩の顔は目の前にある。
その真剣な表情に、僕は言葉をなくしてしまう。
「俺の事、好きになれよ…」
間違いなんじゃないかって思った。
だって、慧があれだけ騒ぐほどの超有名人だ。
スポーツマンで、人当たりの良い性格…校内だけじゃなくて、近くにある女子校とか異性のファンだって山ほどいるはず。
そんな人がどうして僕なんかを選ぶの…?
自分の事だって好きになれない、こんな僕のどこを見て柚原先輩は好きだって言うの?
…また勝手に他人を責めてる。
でも、悪いのは柚原先輩じゃないよ。
全部、僕が『過去』を振り切れないせいなんだ…。
僕はゆっくりと柚原先輩を押し退けると目を伏せた。
「ごめんなさい…」
真幸先輩の事とか今の告白とかで、僕の思考回路はパンク寸前だ。
ここまで色々考えたのって、本当に久し振りかもしれない。
「あ、別に恋人からって言ってるんじゃねぇぞ。まずは『お友達』から、だよな」
おどけて柚原先輩が言うから、何だか笑いがこみ上げて来て自然と笑みがこぼれた。
僕が笑うと、柚原先輩はさっきみたいに頭をくしゃと撫でた。
「さっきはごめんな…あんな事して」
告白して来た時の真剣な表情を消して、柚原先輩は謝った。
気を遣わせてしまった事が申し訳なくて、僕は勢いよく首を振った。
「ううん、僕の方もいけなかったし…」
お互いに謝って、それからは別に気まずくもならなかった。
そのあとは、近くにある牧場に行って馬を見たり、オススメだっていうレストランに連れて行ってもらったり…初めての体験ばかりで、かなりの気分転換になった。
今までは家と学校の往復ばっかりだったけど、こういう経験が心を豊かにするんだなって思った。
その経験があって、今の柚原先輩があるんだって…ただただ羨ましかった。
きっと、のんびり構えてた訳じゃないんだよね。
前に進んで行くための努力をしていると肌で感じた。
それがわかっただけでも、今の僕には前進だ。
僕は僕で、いい加減ちゃんと前を見なきゃいけないんだと…。
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