Eggキット 還ってきた人 ある日、行方不明とされていた一人の少年が、村外れの川で発見された。 ひどく少年は衰弱していたが、生きていた。 村人達は狂喜した。 いなくなった人々は、生きているのかもしれないと、希望を持てたから。 落ち着いた少年は、皆に話した。 村外れの川の側、大きな岩の裏側、其処から自分は出てきたと。 不思議な事に、いなくなってからの十日の間のことも、何処でどうしていなくなったのかも、少年は一切覚えていなかった。 少年の言葉に疑念を抱きつつも、村人達は唯一の手ががりであるその少年の証言どうりに、川まで行った。 何ということだ。と、誰かが言った。 大きな岩は、その裏に小さな黒い歪みを隠し持っていた。 まるで空間を割り裂いたかのように、ただただ黒い歪みがあった。 ある村人が言った。 こんなもの、ついこの間まで無かったと。 少年は言った。 確かに自分は此処から出てきたと。 村人達はその黒い歪みに触れてみた。 それには感触は一切なく、温度も気配もなく、ただ腕を入れてみればそれは際限なく腕を呑み込んだ。 顔を入れてみた強者もいたが、真っ暗で何も見えなかった。 やがて、誰もが認めざるを得ない状況になった。 歪みの向こうは、岩ではなく別の空間であるということを。 しかし、ここでまた、彼等は新たな壁にぶつかった。 行方不明の者達が、この歪みの向こう側にいるのは、ほぼ間違いないだろう。 だが、だからどうしようというのだ。 どうすればいいのだ。 村人達は途方に暮れた。 これが自然的なものなのか、人工的なものなのか、それすらもわからない。 超然的な存在に、あまりに彼等は無力であり、無知であった。 そんな時、一人が言った。 魔女に聞こう。 と。 [*前へ][次へ#] [戻る] |