Eggキット * とある小さな村で、ある日子供が消えた。 誘拐と呼ぶにはあまりに忽然と、家出と呼ぶにはあまりに幼い。 一番村で貧しくて、一番おとなしいその子供の行方を知る者は、誰一人としていなかった。 大人達は噂した。 口減らしだよ。あの親がきっと殺したんだ。 可哀相に、きっともう生きてはいないだろう。 身に憶えのない噂に、ただ貧しい夫婦は惚けるばかり。 それでも、探した。 親が、友達が、隣人が、ひいては村中の人々が。 それでも、子供は見つからない。 いなくなって、1週間が過ぎた。 それでも、子供は見つからない。 いつの間にか、大人達は諦めてしまった。 それから、一月が経った頃。 いなくなった子供を探していた、その子の友達が行方不明になった。 その子の親は、狂ったように捜した。 その親には、家族はその子しかいなかったから。 それこそ、草の根を分けるように。 目を皿のようにして、昼も夜も朝も次の昼も、子供を探して徘徊した。 まるで幽霊のように歩き回り、狂人のように泣き喚いた。 それに感化されるように、先にいなくなった子供の親も、再び探し始めた。 村中の井戸をさらい、村中の空き家の屋根裏まで捜索し、森に入り、夜明けまで子供を探して走り回った。 それでも、子供達は見つからなかった。 そうしている間に、また子供が消えた。 今度は十余人が一度に。 村の子供の数は、とうとう半分になってしまった。 流石に偶然と呼ぶには、重なりすぎた。 大人達は恐怖した。 子供達はいなくなるのを恐れた大人達によって、家の中に閉じ込められた。 いつの間にか、捜索するものは親のみになってしまった。 誰もが、言い表わせない恐怖に脅かされた。 そのうち、大人までもが消え始めた。 一人、また一人と消えていく。 彼等は探すこともできず、ただ姿の無い恐怖に怯えて暮らしていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |