Eggキット
*
人々は駆け上がる。
初めて見た王宮の豪華絢爛な装飾品に、感動するどころか見向きもせずに。
王の間に、護衛に護られた、一人の男がいた。
無礼者め!何者だ。
護衛の一人が声を張る。
あなた方に誘拐された者だ。
王、貴方なんですね?
私達を村から攫い、あの部屋に閉じ込めさせたのは。
問い詰める村人達に対し、気の弱そうな王は悲鳴をあげるばかり。
話など、できる状態ではない。
いったいどうして?
なんのために?
どうやって?
彼等の聞きたいことに、ただ脅えをみせるだけ。
やがて、怒ったかのように話しだした。
まるで、緊張の糸が切れたかのように。
そうさ、私がやったのだ。
特殊な魔術をかけ、座標を固定し、ある一定の時間に固定した場所を訪れた者を、空間の歪みから移動させた。
なんのために!?
知れたこと。
王は笑う。
神への生け贄だ。今年はお前達の村からだったのだ。
まさか、毎年やっていたの?
誰かが、悲痛な叫びを上げた。
なんてことを。
必要なことだったのだ。
王の返答に、村人達は怒り狂った。
そして、彼等は王を倒し、国中に王の所業を公開した。
*
…そしてその後、村人達は新たな王を選び、平和な国造りのために、大いに役にたったそうじゃ」
老婆は話し終わると、ふうと息をついた。
「さぁ、もうお帰り、子供達。
母さんが家で待ってるよ」
促すと、おとなしく話を聞いていた子供達が慌ただしく帰りだした。
小さな小屋に一杯に入っていた、小さな聞き手が疎らに帰っていくのを見送り、老婆は誰も居なくなった家で、にっこりと笑った。
「子供はかわいいね。お姉ちゃん」
すると、どこからともなく魔女の少女が現れた。
「そうね。あなたの話し方も様になっていたわよ?
私のかわいい使い魔」
からかうように笑って、老婆の肩に触れる。
一瞬で、老婆から少女へ変貌した。
「からかわないで、これでも頑張ったんだから」
「最後は話を変えたでしょう?
優しい子ね」
「子供に聞かせられる話じゃなかったからね。
王様が自白する辺りから、変えちゃった」
「ふふ、そうね。
あんな醜く下劣で哀れな話、聞かされたらたまったものじゃぁないわね」
そして、二人は顔を見合わせて、くすくすと笑った。
歴史にも記されなかった、真実。
知るのは、当人達と、傍観者であった双子の姉妹のみ。
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