29-5 潜水艇が海の底を進んでいる。 家具がひとつも置いていない集会室には、ゼロと騎士団の幹部、四聖剣とディートハルトが揃っている。 後ろでそれを見守るのはC.C.とあたしだ。 肉体のある状態で潜水艇に乗り込むため、ルルーシュが用意してくれた騎士団の制服にそでを通している。 ゼロが宣言したのは、式根島での戦闘で枢木スザクを堂々と捕虜にすること。 上陸まで待機するようにゼロが告げ、みんなは思い思いに解散する。 カレンを捕まえて遅い昼食に誘えば、二つ返事で了承の言葉をもらえた。 二人で通路を出て、潜水艇にある食堂を目指す。 「ゼロから制服もらったの?」 「うん。 どう? 違和感ないかな?」 「全然。 仲間って改めて実感できるわね。 似合うじゃない」 カレンの声には楽しそうな明るさがあった。 朝と同じくツンツンしていたらどうしようと不安があったため、安心する。 カレンは確認するように後ろを見て、また視線を前に戻した。 「私、焦っていたのかも」 カレンのそれは、思いが言葉に出るような独り言だった。 「自分しかできない、ゼロのために━━━そう強く思い込んでしまった。 ゼロがそれを望んでいるかどうかも知らないのに。 ありがとう、空。 あなたが一番に私を呼び止めなかったら、私はスザクを、」 そこでカレンは言葉を切った。 その続きは言わなくても察することができた。 「………安心した。 ゼロがスザクを捕虜にするって言ってくれて」 笑みを帯びた声を聞いてやっと分かった。 ゼロの言葉で、一番安心したのはカレンだったんだ。 お互い笑い合い、食堂に到着した。 間隔は空けてるけど、二人座りのテーブルがぎっしり並んでる。 奥の厨房には男の団員さんがいた。 すっきりした顔立ちに、太い眉とスキンヘッドの人。 前に霊体姿が見えるかどうか確認した時に、その人を一度見たことがある。 騎士団唯一のスキンヘッドはインパクトがあったから覚えていた。 「西原、カレーまだ残ってる?」 「あぁカレンさん。 残ってますけど……あの、隣にいる子は?」 肉体がある状態で対面するのは初めてだ。 あたしがいることに若干の緊張と好奇の眼差しを向けてくる。 「この子の名前は空。 各地を渡ってるからあまり表には出ないけどね」 「そうだったんですかぁ。 あ、俺は西原。 食堂管理と料理と雑用が主な担当。 よろしく」 気さくに自己紹介する西原さんに、あたしもお返しで名乗り直す。 そして、カレンと共に厨房に近い席に座った。 西原さんが温めたカレーを持ってきてくれる。 「ほら空、食べてみなよ。 それ、西原の手作りですごい美味しいから」 カレンにうながされ、カレーを一口食べる。 ほんのりとした甘味が口の中でふわっと広がった。 「! 美味しい!!」 ご飯もつややかでベストな柔らかさだった。 美味しすぎて、カレーを運ぶスプーンは止まらない。 あっという間に食べ終われば、カレンは目を丸くした。 「お腹空いてたの?」 「思った以上に美味しすぎて。 こんなカレー初めて!」 食べ終わった後でも味が鮮明に蘇り、満足のため息がこぼれた。 「…だって。 よかったわね西原。 そう言ってもらえたのはこれで何人め?」 「カレンさんを合わせて……ハハ、たくさんすぎて覚えてないですよ」 「やっぱりカレンも同じこと思ったんだ」 「誰だって思うわよ。 西原ね、騎士団に入る前は店開いてたんだって」 「店を?!」 どうりですごく美味しいわけだ。 食堂管理と料理を任されるだけある。 あれ? でも騎士団に入る前だから…? 「東京に。 ブリタニアの奴らが侵攻したせいで店潰れたけどな。 取り戻すために俺はここにいる」 どこか遠いところを見る西原さんの瞳は、強い決意が宿っていた。 それが西原さんの戦う理由なんだろう。 「勝ちましょう」 気づけば声に出していた。 「勝ってまた店を開いたら、カレーをぜひごちそうして下さい」 決意を宿していた瞳を丸くさせ、ポカンとした表情の西原さんはくしゃりと笑った。 「ああ! もちろん!」 戦う人は誰だって理由がある。 守りたいものや取り返したいものがある。 騎士団の、あたしが知っている人も名前を知らない人も。 助けになりたいと強く思った。 もし、助けになりたいと思える人たちを守れるなら、あたしはどんな状況になっても迷わず動けるだろう。 [Back] [*前へ][次へ#] |