「キミ、もしかして誰か探してる?」 女の肩に手を置いて声をかける。 穏やかな優等生の仮面をかぶって。 全ての人間は、自分の見せた微笑みに簡単に心を許すことをルルーシュは知っていた。 だけどどうだ。 自分を凝視する女の表情は。 まるで俺がここに居ることに驚愕しているような顔ではないか。 明らかに不意を突かれた時の反応ではないか。 やはり、この女は自分の名前と容姿が同一のものであると知っている。 ルルーシュの奥底で冷たい何かが顔を見せた時、女は逃げるように数歩後退した。 強張った顔で女は言う。 「う、ううん。 探してない…!」 怯えの色を帯びた否定が何よりの答えだった。 間合いを詰めて、身動きが取れないように腕を握る。 「お前は、俺が何者か知っているな」 「し、知らない!!」 女は即座に否定した。 それを信じようとは思わなかった。 確かに聞いたからだ。 自分の本当の名を、口にしたその声を。 「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアと、お前は確かにそう言ったよな。 知らないとシラをきるなら、洗いざらい吐いてもらうまでだ」 自分には力がある。 見入った者に、どんな命令でも一度だけ遵守させる王の力が。 意識すれば自分の左目に『力』が宿る。 『命令』を口にしようとした時、不意にその声が聞こえた。 「ルルーシュく〜ん? そんなトコでな〜にをしようとしてるのかしら〜?」 聞き覚えがあった。 だから動揺した。 「か、会長?!!」 左目に宿った『力』は動揺と共に消失し、振り返って確認する。 自分が唯一頭の上がらない生徒会長――――ミレイ・アッシュフォードが仁王立ちで俺を見据えていた。 「こんな白昼堂々、廊下で女の子を襲おうとしてるなんて。 ルルーシュくんもやっぱり男だったのね〜」 しかも有り得ない誤解を抱いている。 こんな時に、とルルーシュは内心舌打ちする。 後ろで気配が大きく動いた。 振り向けば、女が全力疾走で遠ざかっていく。 追いかけねばと思った。 が、ミレイに見られたのは厄介だった。 「ルルーシュ、あの子だれ? 知り合い? なぁんか見たことない制服着てるし見慣れない顔だったけど」 知りたがりのミレイが追及するのは分かりきったことだった。 ギアスを使おうか一瞬迷う。 が、ミレイの後ろに人影が見えた。 近づいてくる。 距離は足りる。 「会長、後ろで先生が呼んでいる」 「え?」 こちらへ歩み寄る先生に気づいてミレイが振り返る。 ルルーシュはほぼ同時に『力』を左目に宿した。 「先生、今度生徒会で催すイベントで何か希望ありましたよね? 会長に熱く語ってくださいませんか?」 俺の目を見た先生の瞳に緋色の輪郭が浮かぶ。 ルルーシュは成功と同時に駆け出した。 走りながら、女が逃げたであろう逃走経路を頭に描く。 そっち方面の校舎は外へ続く出入り口が限られている。 並ぶ教室はどれも特別教室で鍵がかかっている。 そして、ギアスをかけるにうってつけのコマは揃っている。 ――――なら、捕まえるのは容易。 ルルーシュの瞳が獲物を狩る獣のように細くなった。 → [*前へ][次へ#] |