29-1 クラブハウスのダンスホールの賑わいはキッチンにも届いていた。 叙任式の翌日、ナナリーの提案で『スザク騎士叙勲おめでとうパーティー』を開くこととなった。 ミレイが校内放送でそのことを知らせ、ダンスホールに集まったのはパッと見、数えきれないほどの生徒達。 みんな“枢木スザク”を祝うために集まった。 パーティーの主役であるスザクの嬉しそうな表情を思い出し、自然と笑みがこぼれてしまう。 ただひとつ問題があるとするなら、後ろで不満そうに黙るカレンだろう。 校門をくぐってすぐ、ここに無理やり連れてきたから仕方ない反応かもしれないけど…。 カレンは、やろうとしていることを邪魔されて苛立っているようにも見えた。 「ごめんねカレン、手伝ってほしいんだ。 あとは冷蔵庫のプリンを会場に運ぶだけなんだけど、持っていく数が数だから」 「他に手伝う人は? ルルーシュやシャーリーがいるでしょう? 私、やらなきゃいけないことがあるんだけど」 カレンの瞳には強い意思が宿っている。 使命を帯びたような覚悟を持った瞳。 その『やらなきゃいけないこと』がどれほど重いか伺うことができる。 それでもここで頷くわけにはいかなかった。 「それ、今すぐじゃなきゃダメなこと? 学園でこうやって二人でいるの久しぶりだから、プリン運びながらでも話したかったんだけど…」 カレンは困り果てたように眉を寄せた。 ずるい手だが、カレンをこのまま行かせるわけにはいかない。 手伝ってもらう形でカレンのそばにいるのが一番自然だった。 「お願い! カレンのプリン、苺を乗せた特別なやつにするから。カレンしかいないんだよ!」 カレンは見て分かるほどに困惑していた。 眉を寄せに寄せ、表情には焦りの色もある。 あともう一押しだと思った時、キッチンに誰かが入ってきた。 「あ…ルルーシュ」 カレンがその名前を口にし、気づいたようにハッと息を飲む。 「ルルーシュ、空が手伝ってほしいって」 そう言葉をかけるなり、カレンは早足でキッチンを出た。 「わっ…ちょ! カレン!?」 逃げるカレンを追いかけようとしたが、ぐいっと腕を掴まれた。 「おい! 待て、何があった?」 ルルーシュの声で、やっとあたしの意識が彼に向く。 「あとで話す! だから離して! そばにいないと…カレン何するか分からないの!!」 掴まれた腕がさらに引っ張られ、ルルーシュに引き寄せられた。 身構えることもできなくてドンと衝突する。 ポンポンと背中を優しく叩かれ、やっとあたしはルルーシュに抱きしめられたんだと理解する。 「落ち着け。 重要な役割を会長に任されなかったのか?」 ルルーシュの言葉で大切なことを思い出した。 まるで衝撃のように。 そうだ、プリンを人数分作ってほしいって頼まれたじゃないか。 「でも……でも……!」 「どうして俺がここにいる?」 不機嫌そうな低い声。 それだけで分かった。 まるで魔法のように、真っ白だった頭が落ち着きという色を取り戻す。 「ルルーシュ」 ここに来たのがルルーシュでよかった。 そう思った途端、目頭が熱くなる。 「━━━━カレンをお願い」 無言であたしの頭を撫でた後、ルルーシュは一目散にキッチンを飛び出した。 廊下を駆ける足音が遠ざかっていく。 これで大丈夫だ。 心からそう思えた。 [Back] [次へ#] |