28-7 謁見の間は、空の想像に反して巨大だった。 ブリタニア国旗が掲げられた広々とした壇上。 壇上から出入り口の扉へと伸びるワインレッドの絨毯。 鮮やかな光を放つシャンデリア。 そして、謁見の間全体に集まるのは華やかに着飾る数え切れない貴族達。 ここで今、ダンスパーティーを開くと言われたら絶対騙されるだろう。 そんな場所だった。 そして今、騎士になるための儀式が壇上で行われている。 壇上にいるのはユーフェミアとスザクの二人だ。 スザクが彼女の前でひざまずいている。 「枢木スザク。 汝、ここに騎士の誓約をたて、ブリタニアの騎士として戦うことを願うか?」 淡々とした問い掛けは、儀式のための決められた言葉だろう。 「イエス、ユア・ハイネス」 スザクは姿勢を崩さず、誓いのように答えた。 「汝、我欲を捨て、大いなる正義の為に剣となり盾となる事を望むか?」 「イエス、ユア・ハイネス」 もう一度答えて、スザクは腰に差していた剣を抜く。 刃先を自分自身に向けたまま、ユーフェミアに剣を差し出した。彼女はそれをゆっくりとした動作で受け取り、両手で構えてから剣の平でスザクの両肩をそっと打つ。 「私、ユーフェミア・リ・ブリタニアは、汝、枢木スザクを騎士として認めます」 宣言し終わり、ユーフェミアは剣を差し出す形でスザクに返す。 受け取った剣をスザクが鞘に戻してから、ユーフェミアは胸元に置いた手を真横に伸ばした。 まるで、儀式を見守る者達に顔を向けるよう促す仕草。 スザクは一歩後ろに下がり、ユーフェミアに背を向ける形で振り返って静止した。 騎士としての儀式を終えたのだろう。 拍手しようとした空は、静かすぎる謁見の間に違和感を抱いた。 どうして誰も拍手しないのだろう? ピンと張り詰めたような怒りの空気に、貴族達がスザクを認めていないことは一目瞭然だった。 ユーフェミアの表情が悲しげに曇る。 スザクは表情を変えなかったが、強張っていた。ユーフェミアが今何を思っているか痛いほど分かる空は、静けさを破るために大きく手を叩き始めた。 だけど誰もその拍手には続かない。 それでも空は手を叩くのを止めなかった。 謁見の間に一人だけの拍手が響く中、もうひとつの拍手が重なった。 拍手の主は空のすぐ近くにいて、スザクが所属する特別派遣嚮導技術部の主任であるロイドだった。 怒りの空気を気にせずにニコニコと笑っている。 そして、壇上の脇に立つダールトンも拍手を送り始めた。 彼の拍手がキッカケなのか、そこでやっと貴族達も手を叩き始める。 謁見の間が盛大な拍手に包まれた。 壇上にいるスザクとユーフェミアが空にそっと視線を向ける。 二人の表情は嬉しそう晴れていた。 [Back] [*前へ][次へ#] |