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3-1
聞こえるのは穏やかなさざ波。
海の音だ。

まぶたをゆっくりと開ければ、視界に白い砂浜と地平線まで続く海が広がっている。

どうして砂浜に立ってるんだ?
ていうかそもそも、ここはどこなんだ?

ベッドで眠ったことは覚えてる。
だけど、なんでここにいるかは覚えがない。

『寝たはずなのに知らない場所にいた』
この感覚をあたしは知っている。
いつも見ていた、暗闇の夢の。

まさかこれも夢?

空を仰ぐ。
太陽が空の真上で輝いていて、だけど暖かさを感じない。
砂浜を踏みしめるザリザリした感触すらない。

手のひらを海に向けるように伸ばせば、肌色のはずの手は透けて、地平線が見えた。

なによこれ…。
まるで幽霊みたいじゃないか。
得体の知れない気味悪さに唖然としていた時、

遠くで、誰かに呼ばれたような気がした。















「――――起きろ」
「ぐぇ」

襟首を引っ張られた息苦しさに目が覚めたあたしは、そのまま床へと引きずり落とされた。

「げふっ」

寝起きでボンヤリしていた頭も、今の理不尽な痛みでハッキリ冴えた。

「いつまで寝てる。
さっさと起きろ」

冷たく言い放ったのはルルーシュだった。

「ひどい!!
なにもベッドから引きずり落とすことないじゃん!!」

優しさのカケラもない起こし方だ。
半泣きで非難しても、ルルーシュはうっとうしそうに眉を寄せるだけである。

「何回起きろと声を掛けた?
むしろ感謝しろ。
わざわざ調達してやったんだからな」

ルルーシュは床にシリモチついたままのあたしに手を差し伸べることもなく、何かを放るように落とした。

「?
なにこれ?」

広げれば、それは見慣れたアッシュフォード学園女子の制服だった。

「うわ すご!
ホントにゲットしてくるなんて…」
「勘違いするなよ。
私服で歩かれちゃ困るからだ」

釘を刺す口調は鋭い。
それでも嬉しいという気持ちは変わらなかった。
だってルルーシュが制服を手に入れるためにわざわざギアスをかけたんだよ?

「ありがとね。
わざわざ届けに帰ってきてくれて」
「ナナリーと一緒に昼食を食べるために戻ってきたんだ。
お前のはついでだ。
勘違いするな」

壁に掛けられた時計は正午を過ぎていた。
戻ってきた理由がナナリーとの昼食のためだとしても、ルルーシュがあたしの希望を叶えてくれたことには変わりない。

「相手のありがとうは素直に受け取ってよ。
嬉しかったんだから」

心から思ったことを伝えたのに、なぜかルルーシュは複雑そうな顔をした。

「どしたの?」
「お前には関係ない」

あたしは、背を向けたルルーシュにわずかな違和感を覚えた。
例えるなら、何かどうしようもない問題に直面した時の余裕のなさ。

ルルーシュはきっと、スザクへの嫌がらせを目の当たりにした。
そして『学校では他人でいよう』とのスザクの言葉に、どうすればいいか分からないんだろう。

だけど大丈夫だよ。
あたしは知ってるから。

「今は、スザク自身を知ろうとする人は少ないと思う。
だけど、動くことを躊躇わないで」

それが、知ってるあたしの唯一言えることだった。





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