28-4 緊張している空は、思いもしないユーフェミアの問いに一瞬間が空いた。 「……騎士? 騎士って……馬に乗って戦ったり王様を守ったりするあの?」 「えぇ、そう。 “騎士”が守るのは王ではなく皇族なのだけれど…。 皇族は誰でも、騎士を一人選ぶことができるの。 昨日私は、スザクを騎士に決めました」 軽やかなノックが扉を叩く。 入ってきたのはスザクだが、姿が先程の彼とは明らかに違っていた。 鞘に納められた剣を腰に差していて、胸元には羽根を広げた勲章。 純白の礼服に身を包むスザクは、一言で表現するなら騎士だろう。 突然すぎてかける言葉が思い浮かばず、空はスザクを見たまま沈黙した。 空の反応にスザクは不安を抱いた。 「空? どうかしたのかい?」 「………ううん…。 何でも無いよ。 ただ、少しね…」 どこか引っ掛かりのある言葉だ。 空はまた沈黙する。 どこか納得がいかずに黙り込むような。 空の沈黙がユーフェミアの表情に影を落とす。 気まずい沈黙が漂い、空気を変えるようにスザクは言った。 「僕は今日、ユフィの騎士になるんだ。 もうすぐで始まる叙任式に空も出席してほしい。 ユフィ、出席するための正装を用意してもらってもいいかい?」 ユーフェミアはスザクの申し出に、安心したような笑顔で頷いた。 「はい。 私、採寸をしてもらうよう頼みますので」 弾むような駆け足でユーフェミアは部屋を出て、残ったのはスザクと空の二人になった。 「空、本当の気持ちを話してほしい。 何か思うことが空にはあるんだろう?」 その“思うこと”が単純な祝いの言葉じゃないのはスザク自身分かりきっていた。 空は言葉を探すようにゆっくりと話し始める。 「ユフィ、昨日決めたって言ったんだ。 なんかいきなりすぎて……。 スザクはどうなのかなって…」 『騎士を選ぶことができる』 『騎士に決めた』 どの言葉も一方的に感じてしまう。 ユフィは皇族で自分は一般人だから、考えが違うのは仕方ない。 だけどそれでも、言葉にできないモヤモヤが胸にのしかかっていた。 「騎士になることに僕の意思があるのかってこと?」 言い当てられて空は黙る。 それを予想していたのかスザクは穏やかに微笑んだ。 「僕はブリタニア軍人として、内部からブリタニアを価値ある国にしたいんだ。 ゼロとは違った正しいやり方で。 僕は……ユフィが僕を騎士に選んでくれてよかったと思ってる。 ユフィが今日話してくれたんだ。 その人をその人として見ない体制は間違っているって。 だから」 スザクは自分の意思で騎士になった。 そう思える笑顔だった。 何も言えるわけがない。 空はスザクの気持ちを受け入れた。 「………ごめん。 あたし、本当に全然考えてないね」 「違うよ、空。 考えてなかったら、そこに僕の意思があるかどうかなんて思い浮かばないよ。 ありがとう」 心の底からの嬉しそうな笑顔。 空は急に恥ずかしくなって、スザクから離れるように歩き出した。 「スザク、ユフィのとこ行こう。 出席する準備しないと」 恥ずかしさで顔を赤くする空に、スザクは何も言わずに後を追った。 [Back] [*前へ][次へ#] |