2-12
窓から見える空は、もう夜の色に染まっていた。
ナナリーが帰って来るのは間もなくだろう。
驚かせるためキッチンに隠れているスザクが控えめに言った。
「空は別に隠れなくてもいいと思うけど」
「ヤダ。
なんかこーいうのってスパイみたいで楽しいじゃん。
あたしも参加させて」
わくわくした気持ちでキッチンからダイニングを覗き見る。
あたしが参加することを不服に思ってるのか、椅子に座るルルーシュは目を合わせようとしなかった。
「空!」
空気を裂くようなスザクの呼び声。
振り返ることすら出来ず、
「ぐぇ」
腕を掴まれて後ろに引っ張られた。
と、同時に自動ドアがスライドした音と、誰かが入って来た気配がした。
「ただいま、お兄さま」
ナナリーの声であたしは納得した。
スザクが後ろへと引っ張ったのは、ダイニングを覗き見てたあたしの存在を彼女たちに気づかせないためだったんだ。
「おかえり、ナナリー。
今日はとっておきのプレゼントがあるんだ」
「まあ。
何かしら」
あたしだけじゃなくスザクもダイニングを覗き見る。
ルルーシュが咲世子さんに向けて『静かに』と唇の前に人差し指を立てていた。
そして、スザクにこちらに来いと手招きする。
その合図にキッチンを出たスザクは、成長したナナリーを見て緊張に唇を結んだ。
自分のことを思い出してくれるのだろうかと不安に思っているのだろう。
あたしは無言でスザクの背を軽く押した。
驚いて振り向くスザクに
『大丈夫だよ』
そんな意味を込めてニコリと笑う。
そこでやっとスザクは笑顔を見せてくれた。
スザクがナナリーの手をソッと握る。
そして数回、ナナリーの手のひらを指で優しく叩いた。
もしかしたら、目の見えないナナリーへのサインかもしれない。
そのサインにナナリーがハッと顔を上げ、スザクの手を確かめるように握り直した。
「スザクさん…?」
半信半疑の呟きだ。
スザクが肯定の意味で握る手に力をこめれば、ナナリーの目尻から涙がこぼれた。
「よかった。
やっぱり、無事だったんですね」
「久しぶり、ナナリー」
7年も会えなかった大切な人が、いきなりテレビで容疑者扱いされて安否が分からず今に至っていた。
ナナリーの涙は安心からくる涙だろう。
見ていて自分のことのように嬉しくなった。
「なにニヤニヤしてる」
離れた位置でナナリーとスザクを見守っていたのはあたしだけじゃなかった。
いつの間にか、ルルーシュがあたしの隣にいた。
「なによニヤニヤって。
嬉しいからに決まってるでしょ。
ルルーシュだって同じじゃない」
表情はあまり変わっていないけど、ルルーシュの瞳はすごく優しい色をしていた。
あたしには絶対見せない顔。
そんな顔する理由は分かりきっている。
少しだけナナリーのことが羨ましくなったけど、それはあたしの心の中に隠しておこう。
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