2-11
「ごめんね。
初めてなのに勝手にキレちゃって。
我慢できなかったんだ」
『お前の行動でスザクの立場が悪くなるかもしれない。
そう考えることはできなかったみたいだな。
無責任だと自覚しろ』
ルルーシュの言葉が頭の中でよみがえる。
確かに、あたしが言ったことでスザクがその先どうなるか全く考えてなかった。
「――――我慢できなかったけどやっぱり無責任だったよね。
ごめん…」
「そんなことない!!」
スザクはすぐ否定した。
「無責任じゃない。
僕は………嬉しかったんだ、キミの言葉が」
スザクは驚くほどまっすぐな眼差しをあたしに向けた。
「諦めていたんだ。
僕はイレヴンだから、冷たい目を向けられるのは仕方ないって。
ルルーシュやナナリーとか、僕のことを分かってくれる人がいるなら、それでいいって」
そして、スザクは寂しげに微笑んだ。
諦めたような、静かな笑み。
スザクにそんな顔をさせたくない―――そう思った。
「そんなこと考えたらダメだよ。
自分はイレヴンだから冷たい目を向けられるのは仕方ない、なんて」
自分のことを分かってくれる人がいるからそれでいいだなんて。
それはとても悲しい考えだ。
「そんなの、自分で壁つくってるようなモンじゃん。
相手と自分を離してさ。
それじゃあ、いつまで経っても誰もキミを『枢木スザク』として見てくれない。
『イレヴン』とか『名誉ブリタニア人』だとか、そんなつまんない先入観でしか自分を見てもらえないよ?
あたしはそんなの嫌だ」
冷たい目を向けられ続けても、諦めなかったら少しでも何かが変わるはずだ。
「スザクはスザクだよ。
スザク自身を見てくれる人は必ずいる。
だから自分で壁をつくらないで。
諦めたら絶対何も変わらないから」
言葉なく聞いていたスザクがボロッと涙をこぼした。
突然のそれにすごい勢いで罪悪感が生まれる。
「あ!!
スザク、ごめん!
あたしなんかすごい勝手なことばかり言っちゃって…」
「ち、違うんだ!
これはキミのせいじゃなくて…!!」
袖で乱暴に目を拭い、スザクは涙が残った顔で笑った。
「嬉しかった。
ただ、それだけなんだホントに」
スザクの見せた笑顔に悲し泣きじゃないことが分かる。
だけど無性に、見てはいけないものを見てしまったような気持ちになり、逃げたくなった。
「あ、あたしルルーシュの様子見てくる!
ほら、ちょっと遅いじゃん」
「行かないで」
例えるなら、雨の中『可愛がってください』と書かれたダンボールにいる子犬。
涙が残ったままのスザクの上目遣いに、逃げようと立ち上がったあたしはストンと腰を下ろした。
無理だった。
捨てられた子犬をシカトするなんてこと。
出来るはずがなかった。
「…………分かった。
あたしはどこにも行かない。
だから大丈夫だよ」
引き止めたことに恥ずかしくなったのか、スザクの頬がわずかに赤く染まる。
「ご、ごめん。
ひとりにしないでほしかったんだ」
「別に構わないよ。
むしろ泣けるのはいいことじゃないかな?
あたしは、泣きたくても泣けない人を知ってるから」
泣きたくても泣けないって言うか、彼の場合はプライドが邪魔して泣かないんだろう。
なんて考えていたらその本人が戻ってきた。
瞳に涙の残るスザクを見るなり、ルルーシュが殺気を飛ばしてくる。
もちろんあたしに。
「おい!!
スザクに一体なにを言った!!」
なにこの浮気現場を目撃されたような修羅場。
スザクが立ち上がり、慌てて訂正する。
「違うよルルーシュ!
これは嬉し泣きなんだ!!」
「嬉し泣き…?」
どういう状況でそうなったんだ的に、ルルーシュは困ったように眉を寄せた。
「だから空を責めないでほしい。
お願いだ、ルルーシュ」
言葉を失い、ルルーシュは飛ばしていた殺気を引っ込めた。
あたしを責めることが出来なくなったのは、スザクが満ち足りた顔をしていたからだ。
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