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階段を飛ばし飛ばしで駆け下りる。
一気に下の階に降りて、崩れるようにその場にしゃがみこむ。
息を吐けば、同時に涙もこぼれそうになった。

「あー………ヤバ。
……ちょっと泣きそ」

分かりきったことじゃないか。
ギアスが効かなくて素性も知っている人間に、ルルーシュが良い顔なんてするはずがないって。
敵意を持つのが当たり前で、友好的に接してくれるはずないって、分かりきったことじゃないか。

「これからどうしたらいいんだろ…」


『口封じをするのが一番だろうな』


殺すこともためらわない冷たい声だった。
胸の奥が痛くて、苦しくなる。

なんでルルーシュの本名を口にしちゃったんだろう。
ボロが出ないようにもっと気をつければよかったのに。
そうすれば、こんなに苦しくなかったのに。
胸の中には締め付けるような後悔しか残らなかった。

「誰かそこにいるのですか?」

少女の声に顔を上げる。

こちらに近づいてきたのは、自動で動く車椅子に乗った、軽いウェーブのかかった栗色の長髪の少女――――ナナリーだった。
自分の中の後悔を気づかせたくなくて、反射的に無理やり笑顔をつくる。

「ごめん。
驚かせた?」
「いいえ。
初めて聞いたお声で気になっただけで…。
お兄さまのお友達の方ですか?」

あたしの声に大体の位置を把握したのだろう、ナナリーが車椅子をこちらに進めてくる。

「友達………って言っていいか分からないけど。
ちょっとした知り合い、かな?」

友達だったらどんなにいいだろう。
だけど、そんな親しい間柄じゃない。
決して。
たとえ、どんなに望んだとしても。
無理なんだよ。

浮かんだのは苦笑。

「わたし、ナナリーって言います。
あなたのお名前は?」
「空だよ」
「まぁ!」

ナナリーの顔がパッと輝いた。
咲いた花みたいな。
太陽のような。
見てるだけで沈んだ気持ちが軽くなる。

「空さんも日本人なんですね」
「うん、そう。
黒髪黒目のバリバリの日本人よ。
よろしくね」
「はい。
よろしくお願いします、空さん」

穏やかな空気をぶち壊すように、ドタドタと階段を駆け下りる足音が迫ってきた。
「ナナリー!!」

髪を振り乱して駆け降りて来たルルーシュが開口一番に叫ぶ。
その切羽詰まった声に、ナナリーは不思議そうに首を傾げた。

「お兄さま?」

階段を飛び越えるように降りるなり、ルルーシュはナナリーを守るように割って入ってきた。
鬼のような形相で睨んでくる。
警戒するのは相手があたしだからだろう。

「大丈夫かナナリー?
何か変なことを言われなかったか?」
「?
変なこと………ですか?
空さんとはお話してただけですよ」

困ったように笑うナナリーに、ルルーシュは安堵にホッと息をつく。

「………そうか。
なら、大丈夫だな。
彼女はもう帰らなきゃならないんだ。
お別れのあいさつをして先に部屋に戻っていてくれ」

ルルーシュはあたしからナナリーを遠ざけたいんだろう。
ハッキリとわかった。

ナナリーが沈んだ面持ちでうなずく。

「そう………ですよね、分かりました」
「俺は彼女を送っていくから、ナナリーは先に部屋に戻ってくれ」
「はい。
それでは空さん、お兄さま、おやすみなさい」

ペコリと頭を下げ、ナナリーは自分の部屋を目指して車椅子を進ませた。
ナナリーの姿が見えなくなった途端、ルルーシュは表情を険しいものに変える。
優しい兄の顔はカケラも無くなった。



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あきゅろす。
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