1-5
足の速さや体力には自信があったけど、校内の地理に詳しい生徒が何人もいたら多勢に無勢だ。
10分もしない内にあたしは狩人と化した女生徒達に捕獲された。
腕を背中に回す形で、狩人達はあたしの腕を固定する。
逃げられないように床に座らされた。
目の前に立つルルーシュは高笑いしそうなほどの悪人面であたしを見下ろしている。
先ほど、騒ぎを聞きつけてやって来た教師二名をギアスで見張りに変えたからこその余裕だろう。
ミレイの時のような助けは来ない。
あたしができることはギアスにかからないよう目を閉じることだけだ。
「目を開けろ。
話をしようじゃないか」
友好的な優しい声音だが明らかにわざとらしい。
ギアスを持つルルーシュのその言葉を信じてその通りにすればどうなるかは簡単に想像がつく。
まぶたをさらにギュッと閉じればルルーシュの舌打ちが聞こえた。
ルルーシュのことだ、きっとギアス以外のあらゆる手を使って吐かせるつもりだろう。
まぶたを閉じてもヤバい現状は変わらない。
―――なら仕方ない、賭に出るか。
「ギアス、かけようとしても無駄よ」
ゆっくりとまぶたを開けてルルーシュを見据えれば、彼の片目は緋色に染まっていた。
ギアスにかかるかもしれないけど、目を開けたのはあたしの言葉を本当だと思わせるため。
「教えてくれたの。
ギアスが効果を成さない条件を」
もちろん、そんな裏技なんて知るわけない。
あたしが口にしたのは逃げるための嘘。
「ギアスが効果を成さない条件………だと?」
よし、乗った。
勝負はここからだ。
「あら。
契約を交わしたのにそんなことも聞いてないの?
ほら、後ろにいるじゃない。
緑の髪の女の子」
その言葉がルルーシュにとっての決定打だった。
あたしそっちのけでバッと体ごと振り返る。
もちろんC.C.なんているはずもない。
あたしはルルーシュのがら空きな内ひざを思い切り蹴った。
予期せぬ攻撃にルルーシュは前のめりに大きく倒れる。
狩人達の拘束の手がわずかに緩み、内心謝りながらも、ひじで相手を突き払う。
いつかテレビで見た痴漢撃退方、覚えていてよかった。拘束する手が離れて逃げようとしたが、後ろから襟首と肩を掴まれて地面に叩き倒された。
息ができなくなるほどの衝撃が襲う。
誰に何をされたかも分からないまま、起きられないよう複数の手が身体を押さえつけてきた。
目を開ければ、ルルーシュがニヤリと口角を上げている。
勝ったと言わんばかりのイヤな笑み。
ルルーシュは不意打ちに弱いと思っていたのに。
「異様に俺の目を見ないことに違和感はあった。
………やはり嘘か」
「嘘つかなきゃいけない状況にしたのアンタでしょ。
あたしはまだ死にたくない」
「殺しはしない。
お前には全て吐いてもらうだけだ」
緋色に染まった瞳に鳥の紋様が浮かび上がる。
「言え。
俺について知っていることと、隠してること全てを」
緋色の瞳がまるで宝石のようで。
息をすることすら忘れてしまうほどに美しい。
鳥の紋様が音もなく羽ばたいた。
ギアスをかけることに成功して安堵したのか、ルルーシュが満足げにニヤリと笑う。
魔王の笑みに、ゾワッと背筋が粟立った。
胸が大きく高鳴り、鼓動は早くなり、顔が一気に熱くなる。
「も…………もう好きにしてください」
ルルーシュになら何をされても構わない。
そう思ってしまった。
「はぁあ?!!」
ルルーシュは魔王の笑みを崩して驚愕に叫んだ。
超難問に対峙しているように眉間にシワを寄せ、答えを懸命に探しているのか黙り込んでいる。
緋色の瞳の鳥の紋様は羽ばたいた形のまま硬直していて、少しの間を置いて―――
「…言え、俺について知ってること全部」
確認するように、ルルーシュはまた同じことを口にした。
だけど別段あたしに変化はない。
「………効かない、とか…?
もしかして?」
口から出任せの『自分にギアスは効かない』は、どうやら本当のことだった。
今までの苦労は何だったんだ、ホントに。
ルルーシュは舌打ちし、半ば乱暴にあたしを起こして廊下を突き進む。
「いいぞ、もう」
その言葉を狩人達に吐き捨て、後は知らん顔だった。
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