28-10 訪問者はゼロと藤堂さんと扇さんだった。 「なかなかの人数ね。 私、月下のデータ頼んだだけなんだけど」 「扇とは偶然そこで会った。 すまないラクシャータ。 私と藤堂は彼女の様子を見に来ただけだ」 「データは俺が。 はいラクシャータさん。稼動機体のは全部あるんで」 扇さんが渡した薄いファイルを、ラクシャータさんは満足そうな笑みで受け取った。 「騎士団に来てよかったわぁ。 いいデータ出してくれる子が何人もいる」 子? あたしは月下を操縦していた四聖剣の人達を思い浮かべた。 “子”と表現するにはみんな大人すぎるんだけど…。 あたしは、ラクシャータさんがどんな人か何となく分かった。 扉を誰かがノックし、入ってくる。 その人物を見るなり、あたしの気分はガクンと下がった。 「探しましたよゼロ」 ディートハルト。 あたしが騎士団の中で唯一、苦手だと思っている人だ。 「話があります。 来て頂いてもいいですか?」 「話? ここでするのはまずい話か?」 ゼロの問いにディートハルトは答えを返さなかった。 確実にあたし達が聞いたらまずい話なんだろう。 諦めたように、ディートハルトは小さなため息をつく。 「ではここでお話しましょう。 枢木スザクの件です。 彼はイレブンの恭順派にとって旗印になりかねません。 私は暗殺を進言します」 ディートハルトの言葉で空気が一変する。 思考が追いつかなくて、あたしはただ絶句した。 「暗殺? 枢木をか?」 「なるほどね。 反対派にはゼロってスターがいるけど、恭順派にはいなかったからねぇ」 冷静に答えたのはラクシャータさんだった。 「人は主義主張だけでは動きません。 ブリタニア側に象徴たり得る人物が現れた今、最も現実的な手段として暗殺という手が…」 ディートハルトの言葉が途切れたのは、藤堂の鋭い眼差しが突き刺さったからだ。 「反対だ。 そのような卑怯なやり方では、日本人の支持は得られない」 扇さんも力強く頷いた。 あたしも同じ気持ちだった。 「そうです! 俺たち黒の騎士団は、武器を持たない者を殺さない! 暗殺って、彼が武器を持っていないプライベートを狙うって事でしょう!?」 藤堂さん達の怒りを前にしても、ディートハルトの表情は涼しげなまま。 最初からそう言われるのを分かりきっていたように。 「私は、最も確実でリスクの低い方法を申し上げたまでです」 「だけどそれを決めるのはゼロだよ」 ディートハルトに向けるあたしの眼差しは、自然と敵を見据える鋭さを持っていた。 多分、スザク暗殺を提案したからだ。 あたしの敵意は想定の範囲内とでも言いたげにディートハルトは軽く肩をすくめた。 「ええ、もちろんそれは承知してます。 あくまでひとつの意見として聞き入れて頂ければ十分です。 それではゼロ、枢木スザクの件をよろしくお願いします」 言うことだけ言ってディートハルトは部屋を後にした。 空気を気まずいものに変えるだけ変えて。 相手が相手だからか、どうしても胸騒ぎを感じてしまう。 「………少し、外行ってくるね」 あたしは、胸騒ぎの原因を追いかけた。 [Back] [*前へ][次へ#] |