[携帯モード] [URL送信]

落花流水
3



打ち鳴らされる太鼓の音、それは皇帝が孔真宮に戻ったことを知らせる。
漆塗りの椅子に腰掛けたまま身体を強張らせた成花は、やがて訪れるであろう榮植に今すぐ逃げ出したい衝動に駆られた。
だが身体が固まり、立ち上がることも逃げ出すことも出来ない。
「・・・・・・・・・長さま・・・・・・・・・・・」
赤子の頃から育ててくれた育ての親を思い浮かべる。
成花を皇帝に献上し、村の安泰を願った長の期待を裏切るわけにはいかない。
こんな風になるとは思わなかったが、今更逃げることは決して出来ないのだ。
金に縁取られた扉がゆっくりと開かれる、成花は震える身体を叱咤して立ち上がらせ、その場に蹲って榮植を迎え入れた。
湯殿に行ってきたのか、榮植の髪は後ろに流されまだ濡れている。
赤色の薄い夜着を着込んだ榮植は、昼間見たときよりも幾分威圧感が薄れたとはいえ、やはり圧倒的な雰囲気で成花を怯えさせた。
付いてきていた女官を下がらせ、榮植は跪いて動かない成花の元へくると茶色の髪を掴み顔を上げさせた。
「ふん・・・・・・・・泣いていたのか。 俺の伽をするのが嫌なのか?」
「っ・・・・・・・・・・・いいえ、いいえ。 私は男です、陛下にお喜び頂けることが出来るのか・・・・・・分かりません」
綺麗に結い上げられた髪は榮植に掴まれた為に解け、白皙の頬に流れ落ちた。
怖ろしくて、真っ直ぐに榮植の目を見ることが出来ない成花にくっと笑い、力の入らない身体を抱き上げると寝台へ向う。
大人が5人ほどはゆうに寝転がれるであろう広い寝台に降ろすと、赤と黄色の色鮮やかな寝台が更に成花の色の白さを浮き立たせた。
「男でも、充分に伽は出来る。 俺を喜ばせたいなら、教えてやろう。 何もかもをな・・・・・・・」
明るい藍の瞳を覗き込み、目を細めた榮植は緊張に震えるその細い身体から服を剥ぎ取り、すらりと伸びた肢体に満足気な息を漏らした。
「お前ほど白い肌は見たことがないな。 傷一つ、染み一つないではないか」
赤子のような柔らかな白い肌に手を這わせ、その弾力を楽しんでいた榮植は唇を近づけると耳の後ろに舌を伸ばした。
「っ・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ぺろりと舐められ、目を瞠った成花に口の端を上げて笑うと、耳を口に含み甘く噛みついた。
カリ・・・・と歯を立てられ、びくりと身体が跳ねる。
成花は何も知らない。
男と女の情事でさえ、分からないのだ。
触れられたときどんな反応をすればいいのかも、反応してはいけないのかも分からない。
だからただ身体を強張らせ、榮植が触れるにまかせてじっと黙り込んだ。
「おい、人形を抱いているのではない。 口を開け、俺にお前の声を聞かせろ」
「っ・・・・・・・・・・・も・・・・・申し訳ありません」
震える声を出した成花に、眉を寄せると榮植は身体を起こし寝台を降りた。
怒らせてしまったのかと顔を青褪めさせた成花は、再び何かを手に戻ってきた榮植に寝台の上で頭を下げる。
「お許しくださいっ・・・・・・・・・・・・・」
「何を許せと? 逃がすつもりはない」
低く呟いた声に顔を上げると、寝台の横にある台に香炉を置き榮植は香を炊き始めた。
ふんわりと甘い香りが漂い、榮植が寝台に上がる。
「陛下・・・・・・・・・・・・・・・」
「初めてか、抱かれるのは」
成花の髪を掴み、引き寄せると腕に抱きこみ榮植はその白い頬に手を添えた。
冷たいと思っていた手は、意外にも温かかった。
「はい・・・・・・・・・・・」
「俺は自分の物に手垢がついているのは我慢ならない。 もしもお前が既にその身体を他の者に与えていたら」
「本当です、私は・・・・・・・・・・・・・」
「殺すつもりだった」
榮職が簡単に口にしたその単語に、息を詰めた成花は次の瞬間寝台に倒され圧し掛かってきた大きな体に固く目を瞑る。
逃がさないように成花のお腹の上に腰を落とした榮植が夜着を脱ぎ捨てた。
自分とは全く違う、完成された大人の身体に知らず見惚れた。
広い肩幅に盛り上がった胸、そしてくっきりと割れたお腹はどんなに鍛えても筋肉のつくことのない成花の身体とは、根本的に作りが違うのだろう。
こうして覆いかぶされると、小さな成花など埋もれてしまう。
「喜べ。 初めてだというなら、優しく抱いてやろう」
成花の頬を大きな手が包む。
強張った身体を解きほぐすように撫でられ、榮植の顔が降りてくる。
「んっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
初めての口付けは、酷く優しいものだった。
赤い成花の唇に舌を這わせ、歯列を割って入り込んできたそれが逃げる舌を絡めとり吸い上げられた。
それだけで何故か身体に熱が篭りはじめる。
ぞくりとした何かが背筋を通り、甘い痺れが腰を揺らした。
「ふ・・・・・・・・・・・・・・・んんっ」
口付けだけで、いとも簡単に陥落してしまいそうな己が恥ずかしくて必死にシーツをきつく掴んだ。
甘い香りが頭の中にまで浸透して、成花から何もかもを奪い去っているような気がする。
朦朧とした成花から唇を離し、ぼんやりとした顔を見て榮植が目を細めた。
「くだらない慣例だと思っていたが、これは拾い物だったな」
くっと笑った気配を感じて、瞬きを繰り返す成花にまた口付けを落とし榮植はまだ穢れを知らぬ清い体に舌を這わせた。
首筋はくすぐったいのか身を捩る成花を押さえつけ、白い肌に赤い跡を残す。
ほんの少しだけ吸えば跡の残るその肌に久しぶりに欲望を感じた榮植は、虚ろな目をして荒い息を吐く成花を見上げ口元を歪めた。
小さくてか弱い少年、貴族の出身でもなければ裕福な家の生まれでもないというのに。
成花はそこらの女よりも美しかった。
憂いを含み清廉とした美貌にすぐに目を惹かれ、本当ならば献上物である全てのものを送り返そうと考えていた榮植はただ1人、成花のみを残させた。
他の者達は皆全て、里に送り返してある。
「一度抱けば、気も済むかと思ったが・・・・・・・・。 お前にはしばらくここに留まってもらおう」
飽きるまでは、そう思った榮植は甘い味のする成花の肌を味わうように舌を這わせた。
胸の飾りは慎ましやかにつんと尖り、それを口に含むとびくりと成花の腰が跳ねる。
吐息を漏らした成花は指を噛み、声を堪えているようだった。
「噛むな、傷がつく」
噛んだ指を外させ、少し赤くなっている指を口に銜える。
「ぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
小さく漏らした声に深い口付けを落とすと、触らせてもいないのに己の欲望がすでに立ち上がっていることに榮植は思わず笑いを零した。
後宮にいる女を抱く時、榮植のそれは女の口か手で勃たせるまで猛ることはない。
それは気持ちが、冷めているからだろう。
ならば今、こんな子供を抱きながら己は興奮しているのか。
なんの技も持たない、無知な子供に。
「成花・・・・・・・・・・・・・・」
名を呟くと、薄っすらと目を開いた成花が榮植の顔を見上げた。
その瞳の中には野心や物欲などの穢れが見当たらない。
どこまでも清らかで、純粋な心の表れなのだろうか。
「へいか・・・・・・・・・・・・・」
まだ幼い、鈴のような声が耳に心地良い。
「名を呼べ、成花」
「え・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
皇帝の名を呼べるのは、その父である前皇帝か、母である皇太后だけだ。
突然のことに戸惑い瞳を揺らした成花に、再度名を呼べと呟くと「榮植様・・・」と小さな声が赤い唇から零れ落ちた。
それを合図に、榮植は吸い続けて赤く熟れた唇に貪るような口付けを落とした。
激しい接吻に息が苦しくなる、だがそれと同時に体中が熱くて堪らなくなり、成花は知らず腰を浮かし主張するそれを榮植に押し付けていた。
「ぅ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ」
榮植が濡れたそれに手をかけ、ゆるゆると扱く。
ゾクゾクとした痺れが身体を駆け巡り、目の奥がチカチカと光った気がした。
「や・・・・・・・・・っ、あ・・・・・・あっ・・・・・・・・・・・・・・・」
小さなペニスを弄られ、胸の突起を甘噛みされて足先まで感じたことのない何かが伝ってゆく。
「榮植さま・・・・・・・・・・・・・、や・・・・・ぁ・・・・・・・・・っ」
ペニスのくびれをきゅっと回すように扱かれ、香によって朦朧としていた成花は呆気なく榮植の手に白濁とした液体を放っていた。
「あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぅうっ」
どくどくと心臓が早鐘のように打ち、一気に脱力した体が重たい。
「も・・・・・・・・・しわけ・・・・・・ありませ・・・・・・・・・・・」
皇帝よりも先に果てるなど許されない。
成花は力の入らない身体を起こそうとして、榮植に抱きとめられた。
「寝ていろ。 まだ終わってはいないぞ」
成花の放ったそれを、固く閉じた小さな窄みに塗りたくった榮植が足を開かせる。
「っ・・・・・・・・・・・・・・」
ビクリと跳ねる体を押さえつけ、指を蕾に押し入れた。
「あっ・・・・・・・・・・、あぁ!」
誰もふれた事のない秘部、そんなところに榮植の手が触れている。
堪らない羞恥に身体を赤くした成花のそこから指を外し、榮植は猛った己を取り出すと先端を蕾に押し当てた。
「ひっ・・・・・・・・・・・・・・・!」
指などとは違う、固く大きなものが蕾の中へとゆっくりと侵入してくる。
「い・・・・・・・・・・・っ、ああっ・・・・・・・・・・・・・」
引き裂かれる痛みと圧迫感に額に汗が浮かぶ。
それでも痛いとは、嫌だとは言えず成花は零れそうになる言葉を必死に堪えた。
「くっ・・・・・・・・・・・・・」
あまりの狭さに榮植の顔が歪む。
「身体の力を抜け、息を吐くんだ」
「あっ・・・・・・・・・・・・・やあぁっ・・・・・・・・・・・・・!」
ず・・・・・っと一番大きな部分を飲み込んだそこが切れた痛みを感じた。
微かに匂う血の匂い。
だがそれもすぐに甘い香の香りにかき消され、頭の芯がぼうっとなる。
「成花・・・・・・・・・・・・・・・・」
「んっ・・・・・・・・・・・・、は・・・・・・・・・・・あっ」
全てを押し込めた榮植が息を吐き、痛みに耐え震える成花の頬を撫でた。
よく我慢したなとまるで褒めてくれているようなその仕草に瞑っていた瞼を開くと、榮植がじっと成花を見つめていた。
「お前の瞳は、湖のように静かだな」
藍の瞳をじっと見つめ、榮植は赤く色づいた唇を指でなぞる。
「この唇は、まるで果実のように甘い」
「榮・・・・・・・・・・植さま・・・・・・・・・・・・・・・・?」
「気にいったぞ、成花。 お前に稜宮を与え、我が貴妃としよう」
上から見下ろす榮植の瞳はそれでもどこか冷ややかで、成花はゾクリと肌が粟立つのを感じた。
「そ・・・・・・のような・・・・・・恐れ多いことを・・・・・・・・。 私は・・・・・・・・・貴妃にはなれません」
喋るとその振動で中にある榮植が蠢いた。
「っ・・・・・・・・・・・・・」
「俺が決めたことだ。 お前は俺の言葉に従えばいい」
稜宮は後宮にいる貴妃の中でも、皇帝の寵妃のみが住まうことを許される宮だ。
そこは皇帝の住居である孔真宮と繋がっており、自由に行き来できるという。
後宮にいる貴妃達は皇帝の許しがなければ孔真宮には入れない。 後宮から外へ出ることすら許されないのだ。
だが稜宮に住まう貴妃だけは、許しがなくとも外庭に出ることも、皇帝の寝所にまで入ることが許される。
ほとんど正妻、皇妃と呼べる存在が入る宮。
後宮にいる貴妃を差し置いて、賤しい身分の己が入っていい場所ではない。
「なれど・・・・っ、榮植さま・・・あっ」
「黙れ。 お前は俺の言葉だけを聞いていればいい。 俺に逆らうな」
動きを再開した榮植が話は終わりとばかりに律動を繰り返す。
濡れた音が卑猥な響きをもって寝所にこだました。




[*前へ][次へ#]

3/24ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!