[携帯モード] [URL送信]

勿忘草
7



「晶・・・・・」
隆行に抱き締められながら無意識に宙へ腕を伸ばすと、不意に顎をきつく掴まれた。
どこか焦点の合っていない晶の目を覗き込み、隆行が痛みを堪えるかのように顔を顰める。
「俺を見てろ。 今からお前を抱くのはこの俺だ、他の男じゃない」
「そ・・・・んなこと、分かってるっ・・・・」
何故そんなことを言い出すのかと睨み付けると、隆行は晶から視線を逸らし首筋へと顔を寄せた。
シャツのボタンを外しながら、現れた鎖骨あたりに唇を寄せ音を立てて吸い付く。
湿った音が聞こえ、唇が徐々に舌へと降りてゆく。
「・・・・・っ」
晶の服を全て剥ぎ取りながら唇を這わせるその動きが酷くもどかしくて、そしてまるで恋人にするそれのように思えて堪らなく心が痛む。
今まで誰かを抱くたびに、こうして唇を肌に這わせたのだろうか。
見知らぬ誰かに嫉妬しているような自分に、そんな権利はないと言い聞かせる。
だがそれでも、隆行にこれまで愛されて抱かれてきた相手が酷く妬ましく思えた。
「晶、目を開けてちゃんと見ろ、俺がお前を抱いているところを」
「い・・・・あっ」
露になった晶の下肢へと手を伸ばし、隆行は緩く立ち上がっているそれに指を絡めた。
ひんやりとした指先に包まれ、鈴口をゆるゆると撫でられると腰がぞわぞわする。
晶の下腹部に唇を押し当て、へそを舐めながら隆行は視線を晶に合わせた。
「っ・・・・」
自分の肌を舐めながら見上げられると、恥ずかしくて居たたまれない。
なのにそれが更に興奮を煽り、鈴口に滴が溢れ出した。
粘り気のあるそれを指で掬い取り、隆行が晶の目の前に差し出す。
「認めろよ。 俺に抱かれてお前は感じるんだ。 他の男じゃなく、俺に感じてる・・・・」
そう言い、隆行は深い口付けを落とした。
少し苦味のある隆行の舌先が晶の舌をくすぐり、掬い上げては甘く噛まれる。
ゾクゾクとした何かに身体が震え、唇が離れるとついそれを追ってしまいそうになった。
「晶・・・・・」
低く、欲望にまみれた声音が心臓にまで響くような気がする。
今この瞬間、隆行は確かに晶に欲情している。
他の誰でもない、晶に。
「隆行・・・・・・」
答えるようにそう呟くと、隆行が微かに目を細め口元で笑みをかたどった。
そして再び晶の下肢に手を伸ばし、緩く上下に扱き始めた。
「はっ・・・・、ん・・・・・」
晶のペニスを扱きながら胸へと顔を寄せ、舌先で小さな飾りを突付いては舐める。
声を堪えて口元を手で押さえた晶をからかうかのように胸の飾りに歯を立て、吸い上げられるとたまらず晶の腰が揺れた。
「う・・・・・んんっ」
「声出せよ。 晶・・・・」
隆行は口元を押さえている晶の手を掴み、そこへ唇を落とし指を口に咥え舌を絡めて舐め上げた。
そして晶の手を離し、身体をずらして下肢へと屈まると固く立ち上がるそれへと顔を寄せた。
「あっ・・・・。 や・・・めっ、隆行!」
舌でぺろりと舐め、口に含み鈴口から溢れる滴を吸い取りながら隆行がペニスへの愛撫を繰り返す。
まさかそんなことをされるとは思っていなかった晶が慌てて身体を起こそうとすると、下から睨みつけられた。
「隆行・・・・・」
「いいからさせろ。 気持ち良くないのか?」
「そ・・うじゃなくて・・・・、でも・・・・」
戸惑い顔を赤らめる晶ににやりと笑い、隆行はまた濡れたそれを口に咥え舌で全体を舐め上げる。
「っ・・・・・」
腰が震えてしまうのを止められず、唇を噛み締めて快感をやり過ごそうとすると隆行の指が晶の後ろへと触れた。
「いっ・・・・あ! た・・・隆行っ」
唾液で湿らせているのか指先は濡れていて、中へと押し込められても痛みはない。
だが後ろとペニスへの刺激にそのまま昇り詰めそうになる。
「ああっ・・・・」
指が1本から2本に増やされ、中を拡げるように動く。
「あっ・・・・ああ!」
身体を弓なりに反らし絶頂へと達した晶が吐き出したものを嚥下し、隆行は後秘から指を抜き晶の上に覆いかぶさった。
荒い息を吐き乾いた唇を舌で舐める晶に咽喉を鳴らし、こめかみへ口付けを落としながら晶の足を持ち上げる。
「ん・・・・・、あ・・・・あっ」
蕾へ猛った己をあてがい、ゆっくりと挿入してゆく。
締め付けがきついのか隆行の額にも薄っすらと汗が浮かんでいた。
「っ・・・・」
晶の手がシーツを握り締める、隆行はその手を取り自分の首に回させた。
晶は隆行の首にしがみつき、あやされるように落とされる口付けにホッと息を吐いた。
「ああっ・・・・」
その瞬間を狙っていたかのように隆行が一気に自身を突きたて、最奥までを抉る。
咽喉を反らし唇を戦慄かせる晶の頬や耳元に唇を落としながら、隆行もまた小さく息を吐いた。
「晶・・・・」
耳元で囁かれ、ぞくりと肌が粟立つ。
薄く目を開くとやけに真摯な眼差しに息を呑み、晶は震える唇を開いた。
「た・・・かゆき・・・、隆行・・・」
本当に、好きだと思う。
堪らなく隆行が好きだ、どうしようもないほどに好きだ。
何をされても、何を言われても嫌いになどなれない。
簡単に嫌いになれるならどれほど楽だろう。
黒く深い闇のような目も、低く甘い声も、ほんの些細な仕草さえ好きで好きでどうしようもない。
惚れた方が負けだとよく言うが、本当にそうだと晶は思う。
隆行が例えどんなに酷い男でも、嫌いになることはきっとないだろう。
何度も隆行の名を呼びながら、晶は微かな微笑を浮かべていた。


すでに契約も済んでおり、制作の方へ回してしまうともう晶の仕事はそんなにはない。
当然打ち合わせなどは出席するのだから隆行と顔を合わせることになるが、以前ほどそれを苦痛に感じることもなくなった。
隆行もどこか落ち着いた雰囲気を見せ、夜2人きりで過ごしていてもまるで以前からの恋人のような、親友のような素振りを見せる。
冗談を言ったりからかったり笑いあう時間は酷く晶を和ませた。
だが2人で過ごす時間が穏やかであればあるほど、怖くなる。
抱く時も隆行は以前のような強引さを見せることもなく、酷く優しく触れてくる。
晶の髪を撫で、頬を撫で唇を撫でるその仕草が嬉しいのに、堪らなく怖い。
今の状況に慣れてしまいそうな自分が怖ろしかった。
愛されているのではと勘違いしそうになる、自分が隆行の恋人なのだと思い込みそうになる。
自分の中に引いていた境界線が曖昧になり、いつか隆行が負担に思うほど纏わりつきそうな気がして、そんな自分が怖くてたまらないのだ。
そんな時、晶は雅春の顔を思い出してしまう。
ぬるま湯のように優しく包んでくれる雅春に逃げてしまいたくなる。
それでもやはり隆行と会えることが嬉しくて、会いたくてまた隆行の部屋へと向かう。
1人で過ごす週末など慣れていたはずなのに、会えない週末は何をしているのだろうと気になって、会いたくて堪らなくなる。
忙しい隆行の仕事を理解しているのに、少しの時間でもいい会いたいと言ってしまいそうで。
言ってしまえば嫌われるんじゃないかと怖いくせに。
そんなことを考えてしまう女々しい自分を情けないと思う。
どうして男らしくきっぱりと諦めるなり、関係を続けるなら割り切るなり出来ないのか。
「簡単に気持ちを整理できるなら・・・・、最初から悩まないんだよな・・・・・」
ポツリと呟いた言葉に、また情けなくなる。
先ほどから進まない書類を脇に寄せ、PCの電源を落とすと晶は昼食を取るためにデスクから立ち上がった。
丁度昼に出ようとしていた吉川と一緒にいつも行く定食屋へと向かい、席に着くと出されたおしぼりで手を拭いながらまた溜息が漏れる。
「最近落ち込んでたり1人でにやけてたり、お前変だぞ」
熱いお茶を啜りながら吉川が眉を顰める。
それに苦笑して晶は小さく首を傾げ、口を開いた。
「なあ、もし好きな人がいて、相手とその・・・・体の関係になったとするだろ? でもその相手が恋人としてではなく体の関係だけを望んでいたとしたら、お前ならどうする?」
「はあ?」
「だから・・・・」
「最近おかしかったのはそのせいか? お前に好きな奴がいるなんて初耳だぞ」
目を瞠り店員が届けた定食に箸をつけながら吉川は奇妙な物でも見るように晶を見つめた。
「お前に恋人ねぇ・・・・。 変な感じだ。 お前そういうことに無関心だと思ってたし、淡白なイメージがあったからな」
「俺だって別に・・・男だし。 好きな奴くらいいる」
ムッと口を尖らせた晶に笑い、だがすぐに真顔になると吉川は考え込むような仕草をした。
「俺なら、そうだな。 相手に好きだと言って、振られても諦められないならまた好きだと言う。 本当に好きなら諦めることなんて出来ないからな。 とことんまで食い下がってみるだろうな」
「迷惑だって言われても?」
普段は滅多に見ない吉川の真面目な表情に真剣な面持ちでそう聞くと、吉川は頷いて豪快な笑みを浮かべた。
「だって体の関係を持てるなら、多少の好意はあるはずだろ。 嫌いなら寝ることも出来ないからな、特に女はそうだろ? 嫌いな相手と寝るなんて有り得ない」
吉川は確信に満ちた顔をして、俯いて考え込んでいる様子の晶の頭をぽんぽんと叩き励ますように笑った。
「頑張れよ、諦めずにやってみろ。 それでもどうしても駄目なら、やけ酒付き合ってやるよ」
人付き合いのあまり上手くない晶に最初から親しみやすく接してくれた吉川のその言葉に、晶は安心したように息を吐いた。
吉川の言うとおり、諦めるのはもっと後でもいいのかもしれない。
一緒にいれば辛かったり泣いたりすることもあるだろう。
だがそれでも、諦められないのはどうしようもない。
霧が晴れたようにどこかすっきりとした気分になり、うっとおしいと言われても一度隆行に好きだと告げてみようかと思えた。
それでもし、迷惑だと避けられるのならそれ以上纏わりつくのはやめよう。
一度だけ、ひと言だけ言えたら諦めもつくのかもしれない。
伝えられなかったからこそ、今まで引き摺ってきたのかもしれないのだから。
「うまくいったら紹介しろよ?」
吉川の言葉に曖昧に笑いながら、晶は隆行に伝えようと心の中で強く決心していた。




[*前へ][次へ#]

7/10ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!