黄昏の約束 月明かりの下で なんだかそのまま部屋に戻る気にもなれず、 私は夜の境内へと出た。 空気が少し冷たい。 だんだんと秋は深まり、夜の空気は張り詰めている。 月明かりは優しく降る雨のように、境内を照らしていて、 私は静寂の中をただ歩いていく。 『風が気持ちいい…』 そんな風に呟きながら歩いていて、やがて私の足は止まる。 月明かりの下に、拓磨の姿があった。 私には気付いていない。 ただ、なんだか寂しそうに、彼は立ち尽くしていた。 怒っているように見えた。 けれどそれは、誰に対してと言う訳ではなくて……。 私には、とても穏やかだけど深い怒りに見えた。 私は声を掛けられないままそこに立ち尽くしていて、 その時、もう一つの人影が現れるのをただ見ていた。 [*前へ][次へ#] |