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短編集
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フィルデガルドは親として、出来る限りの愛情を注ぎ、自分の残り少ない時間、その全てをこの子の為に使おう。


と、思った。


そこには、一人の強い母親の姿があった。




一方、ゼルフィードは生まれたばかりの我が子を前にした時、どうすれば良いか分からなかった。
どう抱いたら良いかも、分からなかった。

我が子を前に立ち尽くすゼルフィードに、フィルデガルドは小さく笑う。

「ほら、抱いてみて下さい。大丈夫ですよ」


そう言って、ベットで寝ている赤ん坊を抱き上げ、ゼルフィードへと手渡した。

心の準備をする間もなく、いきなり赤ん坊を手渡されたゼルフィードは、落とさないように気をつけながら抱く。


「小さいな…」


腕にすっぽりと収まってしまう大きさの赤ん坊。

果たして、元気に育つのだろうか?。

ゼルフィードは、小さく生まれた分ちゃんと、我が子が育つか心配した。




しかし、ゼルフィードが、そんな事を思ったすぐ後。


「ふぎぁぁー」
と、大きな声で赤ん坊が泣いた。


まるで、ゼルフィードの心配を分かっているみたいに、泣く姿を前にして、ゼルフィードは動揺した。

「なっ…何で、泣くのだ…」

泣きやまそうとあやすが、一向に泣きやまない赤ん坊に、ゼルフィードが困り果てていると。



「ゼル。この子は元気です。何も心配することはありませんよ」


そう言って、フィルデガルドは、ゼルフィードから赤ん坊を受け取り、その背をポンポンと軽く叩いた。



すると、赤ん坊は。


「ふぁぁぁ」

と、声を出した後、静かになった。


手慣れた様子で、赤ん坊をあやして寝かしつけたフィルデガルドに、ゼルフィードは言った。

「フィア。そなたは、赤ん坊の扱いに手慣れているな」
「私は、弟が赤ん坊の頃から世話をしていましたから、あやすだけなら、得意なんです」
「そうか」
「えぇ」

二人の間に穏やかな時間が流れる。

だが、フィルデガルドが出産を終えた今、二人が共にいられる時間は多くは無い。

確実に、妊娠から出産のダメージは身体を蝕み。
フィルデガルドの命の炎は、残りわずかとなっていた。


「フィア。私は必ず、この子を守る。この命を懸けてでも、絶対に守ってみせるぞ。フィア…愛している」
「ゼル。…私も愛しています」



重なる唇。


互いの熱が交じり合う。





この時が、ずっと続けばいい。



二人は、そう思った。


だが、時間は残酷なモノ。


使われた毒は致死量ではなかったものの思う以上に、出産に体力を使ったフィルデガルドは、我が子を誕生から3日後、静かに、息を引き取った。


愛しい者の亡骸を前にして、ゼルフィードは。

「フィア。必ず、この子を守る。絶対に守ってみせる。私達の貴いこの子を…」

小さな我が子を抱きしめて、そう誓う。



その数時間後、ゼルフィードは、フィラムと、二人で決めていた名前を付けた我が子を信頼できる者と共に逃がした。





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