短編集 〜愛しき命〜 生前、セルネスであるフィルデガルドが我が子と過ごした時間は少なかった。 何度も言うが、セルネスの子供は親子二代、親の生命を奪って生まれてくる。 本来なら、セルネスは孕む側には向かない。 それでも、産めば命が残り少なくなると、そう分かっていても、フィルデガルドとゼルフィードは子を作れて、幸せだった。 それが刹那的な幸福だと、分かっていながら、二人は静かに、その幸福を噛み締めていた。 出産する前からの決して避けられない死のカウントダウン。 我が子が生まれた後の残された僅かな時間を悔いなく過ごそうと、二人は決めていた。 少しの間だが、親子の時間を噛み締めよう。 そう決めていた。 しかし、ある人物の嫉妬と憎しみが、二人の別れを早めてしまう。 そのある人物とは、ゼルフィードの母、シュレーナだった。 ゼルフィードは、シュレーナの自慢の一人息子。 そんな大事な息子が、事もあろうに、セルネスを孕ませたという事態に、どうすれば良いか、最初は戸惑った。 だが、戸惑いは次第に、激しい怒りへ変わっていった。 ただでさえ、自分と息子は、夫であり父である人に、疎まれているのだ。 母親から見ると、息子の後を考えていない行動は、自分達を窮地に追いやるものだ。 シュレーナは、それが悪と知りながらも、自分と息子を守る為に、人を使って、フィルデガルドの世話する人間を買収し、食事に子供が流れる毒を混ぜさせた。 「この世には、生まれてはいけない命もあるのです」 そう思わなければ、シュレーナは、罪に潰れそうになっていた。 だが、シュレーナの思惑は半分成功したが、半分失敗した。 その毒は子供が流れるには、少しだけ量が足らなかったのだ。 何故なら、買収されたとはいえ、その人物は急に子供を殺すという恐怖に怯えてしまったのだ。 だが、毒は毒。 それにより、フィルデガルドは月足らずで、小さな赤ん坊を出産した。 出産による疲労感を身体で感じながらも、フィルデガルドは幸福感に包まれていた。 通常の赤ん坊よりも、小さな我が子。 しかし、小さいながらも、懸命に命の声を上げている姿に、母親となったフィルデガルドは、声をかけた。 「愛しい私の子。どうか、健やかに育って」 [次へ#] [戻る] |