小説「宵闇の皇子様と明星の皇子様」
子供
それは、マリエッタとガイゼルが婚姻を結んでから、十年が過ぎたある日。
朝の定例会議の席で、臣下の一人からある言葉が出た事で、波紋を生んだ。
それは、定例会議も終盤へ差し掛かろうとしていた時の事。
「陛下。どうか、私めに発言をお許し下さい」
そう声を上げたのは先日、大臣補佐に任じられたばかりのマーフィルという男。
「………」
ガイゼルは、無言でマーフィルを一瞥し、動作で発言を許可した。
すると、マーフィルは。
「陛下。まずは昨日、御側室ララ様に、第二皇女様が御生まれになった事、民の一人として喜び申します」
と、発言し続けて。
「現在、我が国には、二人の姫君と三人の皇子殿下がご誕生され、民は喜びを隠せませぬ。しかし、我が国の民が、真に望むは、皇妃様へ御子が出来る事でございます。どうか、この民の願いをお聞き届け下さい」
そうガイゼルに視線を合わせて言った。
途端に、辺りをシーンと不気味な静寂が支配した。
しかし、すぐに上座付近に座る貴族から声が上がった。
「マーフィル殿。貴公は場を弁えるという事を知らぬとみえるな。加えて、その発言は不敬だぞ」
すると、マーフィルを軽視する声音を隠さない発言に、同調するように周りからも、似た様な声がマーフィルへ向けられた。
「まさしく、マーフィル殿。貴公は、ご自分の立場を理解していない様ですな」
これが、別の者であったなら、こうまで言われはしないだろう。
せいぜい、周りから失笑を買うぐらいで、済む筈である。
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