BL小説「虜」 〜恋を知らぬ星詠み〜 ゼルフィードが愛を恐れ、恋心を殺していた時、フィルデガルドは心の中で、答えの無い問いかけをした。 (母上、貴方は何故、私を生んだのですか?) 星の声が聞こえないからこそ、改めて考えていた。 確実に、死ぬと分かっていながら、子を産む。 深い愛がなければ、自分を犠牲には出来ない。 (父上にとって、母上は今でも、特別な方です) セルネスの子は、世継ぎには向かない。 だからこそ、貴族の父とセルネスの母は正式な婚姻を結ばなかった。 父は出来れば、母を正式な妻にしたかったそうだ。 しかし、それだけは許されず、父は家の為に、母以外の人との子を作る必要があった。 しかし、母の死から10年が経っても、父は正式な妻を迎えず、周りがいくら言っても、誰にも、目を向けなかった。 父は、死者への愛を忘れられずに居た。 愛した記憶と愛された記憶が強すぎたのだろう。 そして、そんな父を見かねたのか、ある時、父の姉が父に言ったそうだ。 「お前は、負担の全てをフィルデガルド、一人に追わせる気か?何も、新たな妻を心から、愛せとはいわない。今のお前には、無理だろうからな。だが、私は見つけた。お前と同じ境遇の者…、その者も、子を作らなければならないが、死者への愛を忘れる事が出来ずに生きている」 その話を聞いた父は、少しだけその人に興味がわいたのだろう。 その人に、会う事にしたそうだ。 そして、その人こそ、後に、ルドルフを産む事になる人。 名前はジョル。 最初の出会いから、意気投合した二人は、それから、何回か会う内に、穏やかな気持ちをお互いに、抱くようになっていた。 ジョルは、貧乏な男爵家の次男坊で、当時は二歳下の妻をお腹の子もろとも不慮の事故で亡くしていた。 深く妻を愛していたジョルは、もう妻は持たないと、そう決めていたそうだ。 だが、その決意をした直後、上の兄が病に倒れ、呆気なく死んだ。 兄には、妻が居たが子はなく、ジョルは決断を迫られていた。 そんな中での父との出会い。 二人の間には、愛情というモノは介在していないが、父とならば、子を作っても、後悔しないだろうと、ジョルは考えていた。 そして父も、人生のパートナーとして、ジョルを気に入ったようで、二人は、ほどなくして、正式に結婚した。 だが、ルドルフが生まれても、二人の間には愛情というモノは芽生えなかった。 穏やかな愛情に似た何かがあるだけで、父は母をジョルは妻を思い続けている。 (母上、私も父上のように、身を焦がす程の感情を知る事が出来ますか?) 親子は似ると言うが、ユリエスとフィルデガルドの二人は同じ結末を辿った。 激しく愛し合って、身を焦がす程の感情で、命の炎を燃やしたユリエスと穏やかな中にも、激しさを秘めた愛を貫き命を掛けたフィルデガルド。 死の最後、二人が互いに願ったのは、それぞれ可愛い我が子の幸せ。 希望を知らない皇子に、希望を知る星詠みが出会う時、物語は始まる。 [*前へ] [戻る] |