BL小説「虜」 2 あの当時の事は、鮮明に思い出せる。 日々、そなたの艶やかだった肌から、張りが失われていった。 赤く色付いていた唇は生彩を無くし、死が間際まで迫っているのが、ありありと感じて取れた。 別れが来るには、早過ぎる。 絶望の底へ突き落とされる私に、そなたは弱々しくも、柔らかな微笑みを浮かべ。 『ゼル。愛しい人…許してください…貴方を置いて、先に逝く私を…。お願いです。どうか、貴方は、生きてください』 と、言った。 本当は…。 嫌だった…。 フィア。 そなたの居ない世界に、何の意味があるというのか?。 私は今も昔も、はっきりと断言しよう。 そなたを欠いた世界に、全く未練などない。 しかし、私が生きる事。 それが、最後の願いなら…。 私は、この生を生き抜こう。 例え…。 戻らぬ温もりを想い続けて。 空虚な日々を送ったとしても、自然な死が来るまでは生きていよう。 フィア。 そなたが、迎えに来る日を数えていよう…。 [*前へ][次へ#] [戻る] |