BL小説「虜」
5
しかし、この時間は長く続かない。
早過ぎる死が、別れをもたらす。
愚かな弟。
お前は、この子に、こんな決断をさせた。
なんて、馬鹿な子なの。
堪えきれない感情が、彼女の中で、爆発した。
『マリー。泣かないで……』
『あら、私は泣いてなんていないわ』
そう言って、流れ落ちる涙を拭って、気丈に振る舞おうとする彼女。
だが、拭いきれない涙が、床を濡らす。
そんな彼女に、相手は。
『マリー。私は見たのです……幸せな未来を……』
と、言った。
『幸せな未来?』
『えぇ……幸せに満ちた未来です』
柔らかな微笑み。
憂い一つない表情。
『この子は、沢山の人に愛されます……そして、愛する人を見つけます』
愛おしげに、下腹部の膨らみを撫でる相手。
『もう、性別は分かっているの?』
彼女は相手の手に、自分の手を重ねて、問い掛ける。
『えぇ、元気な男の子です』
『私の甥っ子。無事に生まれていらっしゃい』
彼女は、下腹部へと語りかけた。
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