BL小説「虜」
過去
『貴方は馬鹿ね。いいえ、大馬鹿だわ』
彼女は久しぶりに、顔を見た相手に挨拶の代わりとばかりに、胸を張って、そう言い放った。
しかし、そう言われた方は。
『えぇ…確かに、そうかもしれませんね』
と、柔らかな笑みを浮かべ返した。
すると、彼女は睨みつけながら、言った。
『あら、自覚はしてるのね…でも、貴方の覚悟は変わらないのでしょう?』
しかし、言い終わると、その勝ち気な瞳には、悲しみが陰った。
何故なら、前に会った時よりも、相手が目に見えて、痩せていた。
ハリと赤みを失って、青白くなった肌。
ある一点を覗いて、どこもかしこも、細すぎる身体。
相手からは、肉という肉が、削げ落ちていた。
彼女の視線が、ある一点に、注がれた。
相手は、それに気付くと、己の手をそこへやり、大事そうに撫でながら言った。
『マリー。私は後悔したくないのです……』
『貴方は、あの子を一人にする気?』
『いえ……あの人は、一人ではありません』
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