BL小説「虜」
氷の視線と太陽の眼差し
主の居ない時に、とんでもない人物が二人も、やってきた事で、ルース邸の使用人達は、慌てた。
それに対して、マリアテレーズが。
「落ち着きなさい。リグレ様と私は、ルース公に用があって来たのではない。この屋敷に居る少年に用がある」
そう言うと、執事のバルドルは、困惑しながら、聞いた。
「しょ、少年でございますか?」
「あぁ、ルース公が連れてきた少年が、この屋敷には居るだろう?」
そう言われて、バルドルの脳裏に浮かぶ二人。
突然、主が連れて帰ってきた少年と青年。
赤銅の髪をした青年の方は使用人と同じ扱いでも、良いがもう一人の銀髪の少年の方は主から、主の愛娘であるカレンディラと同等の扱いをしろと、言われている。
だからこそ、バルドルは、先ほどとは違って、ルース家の執事として毅然として態度で聞いた。
「マリアテレーズ様、どのようなご用がおありなのでしょうか?」
だが、マリアテレーズから、冷たい視線が飛ぶ。
「言えぬ」
「それでは、御通しする訳にはいきません」
「ほぉ」
バルドルは屋敷を管理する者として、発言した。
「私は、旦那様よりこの家の事を任されております。今、旦那様は御在宅ではありません。旦那様が居られない以上、私が来客された方への対処を判断する権利を有しております。ですから、ご用件を伺わずに、御通しする訳にはいきませぬ」
マリアテレーズとバルドルの視線がぶつかる。
そんな中、黙ったままだったリグレが言った。
「私達は、どうしても、その少年に会わねばならぬのだ。訳は言えぬが、どうか通してくれ」
前帝に、柔らかくそう言われてしまうと、民の一人であるバルドルも、どういった態度を取ればいいか分からない。
「リ、リグレ様…」
更に、リグレは。
「頼む」
と、軽く頭を下げた。
これには、バルドルも慌てた。
「わ、私などに…そ、そ、そのようなお言葉はもったいなく、あぁ…ふぅ…分かりました。リグレ様に、そこまでされては、民の一人である私には、拒否できません。ご案内致します」
マリアテレーズは、案内されている時、周りに聞こえない小さい声で、リグレにだけ聞こえるように。
「嫌な方ねぇ」
と、呟く。
すると、リグレは答えた。
「さて、何のことだ?」
優しげな笑みの下にあるしたたかな策士の顔がリグレから見えた瞬間だった。
ただ優しいだけでは、統治者には向かない。
マリアテレーズがバルドルにとっての強風になった時、リグレは太陽となった。
「あなたは、強くなったのですね…」
というマリアテレーズの言葉に、リグレは小さく笑うが、心の中では。
(マリー。私は強くならねば、耐えられなかったのだよ。君を失って、私には皇帝になる道しかなかったからね…)
と、呟いた。
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