BL小説「虜」
新たなる運命の始まりとなる日
まだフィラムがガーメイルへ来た事を連れてきた者以外知らなかった頃、マリアテレーズは、その知らせをガウスから、聞いていた。
「…陛下の腹心であるルース公が、あの子供をこの国へ連れてきた?」
「はい、張り付かせていた者から、そう報告がございました」
「…陛下は?」
「どうやら、内密に動いたというよりは、ルース公の独断で、お連れしたようです」
「あのルース公が独断で動いた?」
「はい、ルース公の亡き奥方の墓に、お子様と共に行かれた際に遭遇し、そのまま国へと」
「そうか…」
少しの間、思案した後、パチリと、扇子を閉じると、マリアテレーズは言った。
「ガウス。ルース公の屋敷へ行く」
「…お会いになるのですか?」
「…あぁ、会わねばならぬ。それとリグレ様にも、使者を出しなさい。一緒に向かう。それと、リアーツへ手紙を出す準備しなさい」
「はっ」
頭を下げて、出て行くガウスの後ろ姿を見ながら、マリアテレーズは。
(あの小さな赤ん坊が、どのように成長しているのだろうか…皇帝の子でありながら、その出自故に、表にでてはいけない子…)
と、思っていた。
一方、しばらくして、リグレも、ガウスから、フィラムがガーメイルへ来ている事を聞かされ、驚きを隠せなかった。
「まさか、忠臣中の忠臣であるルース公が、皇帝に黙って動くとはな…」
代々、もっとも忠義に溢れているルース家の者達。
リグレの信頼する側近にも、前ルース公であり、現ルース公の父親がいる。
だからこそ、二重の意味で、リグレは驚いていた。
「いや、忠義者だからこそ、動いたと見るべきか…」
リグレは、フィラムの事を知らせた後から、一言も喋らないガウスへ。
「分かった。私も、向かおう。案内を頼む」
「はっ」
歯車は回る。
小さな二人の小さな恋は、大きな展開を迎えようとしていた。
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