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BL小説「虜」
当然の怒りVS冷静さ
「なに、なっ…なんだと?」

それをクロスから聞いた瞬間、バイスは一瞬だけ固まり、そして。

「クロス。それは、どういう意味だ?」

クロスを睨み付けながら、問う。

しかし。

「なんだ、聞こえなかったのか?ならば、今一度、言おう。フィラム様を我が屋敷へお連れしたと言ったのだ」

クロスは、バイスの睨みなど意に介さず、そうサラッと答えた。


「クロス!貴様、正気かっ!!」

声を荒げるバイスへクロスは。

「私は正気だ」

と、冷静に返した。

しかし、その態度が気に入らなかったのだろうバイスは、また声を荒げる。

「貴様は、分かっているのかっ!!屋敷へフィラム様をお連れしただと?この事が露見すれば、陛下のお心が乱れるだけではない可能性もあるのだぞっ!!」


バイスの怒りの理由は、クロスにも分かる。


だが、クロスは冷静なまま答えた。


「バイス、フィラム様をお連れして逃げたのは、私の妻だ。事の重大性は、誰よりも知っている」
「ならば、何故だっ!!」

「フィラム様は…フィルデガルド様に、よく似ておいでだ。あの美しさは成長すれば、更に増すだろう。立場の弱い庶民では災いにしかならぬ」
「そ、それは…」

「妻が命を懸けて、お助けした方だからこそ、あの方が不幸になる可能性があるなら、私はあの方を助けたい」


淡々としながらも、強さが見えるクロスの言葉に、バイスは何も言えなかった。


「私のこの決断は、陛下のお心を乱すだけではない事は、よく分かっている。全ての事が露見すれば、この国を更なる混乱へ落とす決断だからな。だが、それでも、私は…何があっても、フィラム様を御守りすると、あの方に、再び出会ってしまった時、そう決めたのだ。あの出会いは、亡き妻が引き合わしてくれたのかもしれんとさえ思うのだ」

「クロス…」

バイスとて、愛しい者の喪失の悲しみを知る者。
バイスとクロス。

違いがあるとすれば、それは、愛を無くした者と愛する者を亡くした者という事。




「バイス。分かってくれ」


もはや、バイスは反論する事ができなかった。







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