BL小説「虜」 旅に+αと心配と あれから、物事が慌ただしく進み、リーフを後にする事となったフィラムだったが、ガーメイルへは、ハービィも一緒に着いてきてくれる事になった。 フィラムは単純に、ハービィが一緒に着いてきてくれて、嬉しく思った。 だが、それにはある裏があった。 リーフに帰り、来るまでに、クロス達と話し合って作った偽りの話を皆に話すと、ハービィはクロスを理由をつけて、外に連れ出し、クロスに頭を下げた。 そして、言った。 「お願いします!どうか、俺も一緒に連れていってください!何でもします!雑用なら、一通り出来ます!」 最初、クロスは難色を示した。 フィラムの出生の秘密を知らない人間を連れていく訳には、いかなかったからだ。 だが、クロスにだけ聞こえる声音で、ハービィが言ったある事で、考えを変えた。 「クロス様。貴方様が下級の貴族様じゃないって、俺には分かります。貴方様のマントの色、その青色は、‘ある’家にだけ伝わる特殊な青色ですよね?…貴方様は、上級貴族だ。それも、かなり有名な…ね」 「っ!?」 (この子供、何故、それを知っているっ!?) 驚く、クロスにハービィは、更に言った。 「貴方様が何故、フィラムを連れていきたいか?なんて、一介の下働きの俺には分からない。でも、フィラムは俺には大事な家族なんです!!。お願いします!!オレも、連れていってください!!」 決意に満ちた瞳のハービィに、クロスは負けた。 多分、ここで連れていかなければ、ハービィが何を言い出すか、分からないという心配もあった。 そして、一介の下働きに過ぎないハービィが、クロスの纏うマントの色だけで、地位を推測した事にも、驚いた。 だが、それよりも何よりも、ハービィのフィラムを純粋に心配する姿に、愛しい人の姿が重なった事も、大きかった。 (カーツ…、君もこんな思いだったのか?) 大事な人の為に、何かをしたい。 その思いに、貴賤はない。 この時、ハービィはある事を考えていた。 フィラムが心配なのは、当たり前だが、それよりも、不安だったのだ。 (フィラムが帝都に行けば、この貴族様の地位なら、まず間違いなく、また出会ってしまう筈だ) 頭に、あの二年前の光景がよぎる。 (フィラム…、身分違いの恋なんて、自分が不幸になるだけだ…俺は、お前の悲しむ顔は見たくないんだよ…) 「ごめんね、母さんが弱いから、貴方に苦労をかけて…」 泣いて謝る母の顔が、ハービィの頭に浮かぶ。 ハービィ・カストル。 それは、偽りの名前だ。 彼の本当の名前。 それは…。 ハービィ・グダレタ・テンバール。 そうハービィは、あのテンバール公の庶子。 つまりは、亡きアデリアーデの腹違いの弟。 それも、悲惨な生まれ方をした庶子の一人。 19年前、屋敷に勤める身寄りもない下働きの下女のその美貌に、目をつけたテンバール公が欲望のままに、無理矢理に犯して、出来た子が、ハービィだった。 ハービィが貴族の纏うマントの色だけで、貴族を判別できるのは、捨てられる前まで、そうした知識を父であるテンバール公から、与えられてきたからだ。 テンバール公は、気まぐれに、庶子を作っては、ある程度、子供が育つと専門的な知識をそれぞれに、与えた。 自身の長男。 つまりは、正妻が生んだ嫡男の部下として使う為に、そうした教育を施した。 だが、異母姉であるアデリアーデは、自分が皇妃になるのが決まると、父であるテンバール公に言った。 アデリアーデは前々から、庶子という存在を疎ましく思っていた。 「お父様。私は必ず、男の子を産みます」 「おぉ、頼もしいな」 「だから、お願いですから、あの庶子達を処分してくださいな」 「お、おい!アデリアーデっ!!」 それには、流石のテンバール公も、慌てた。 しかし、アデリアーデは、更に言った。 [次へ#] [戻る] |