BL小説「虜」
驚きの提案
困り顔のフィラムを前にして、クロスは思い出していた。
まだ不幸が訪れる前の幸せだった日々。
(思えば、あの頃が一番、我々は幸せだったのだな。ただただ愛を信じ、恋を謳歌していた)
幸せの先に、残酷な未来が待っている事を知らなかった。
(あの日々は、本当に甘い夢のようだ。フィルデガルド様。貴方様は幸せでしたか?……いえ…、愚問でしたな。死の間際も、淡く微笑みながら、貴方様は言っておられた)
「私が死んでも、この子は生きています。私の愛は途絶えません。分かっています、この子がこの世を生きるのは大変かもしれない。でも、私はこの子に生きていてほしい。健やかに育ってほしいのです」
だからこそ、クロスはある覚悟を決めた。
(フィルデガルド様。この出会いは、運命なのでしょうか?…でしたら、このクロス、見届けることにいたします)
「フィラム様」
「えっ?は、はい」
こちらを真っ直ぐ見るフィラムに、クロスは言った。
「…どうか、我が家においでください。この私が貴方様の後継人となります。貴方様が帝都にお住まいになれば、いつかお父上様に会う事も叶うやもしれませぬ」
「っ!?」
「ち、父上!?」
突然のその申し出に、フィラムは、言葉を失った。
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