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BL小説「虜」
忠義、それは時に己の命よりも重いもの
カレンディラは、涙を流すフィラムを前にし、どうすれば良いか悩んでいた。

(この子は、いえ…この方は、貴きバルカの血を受け継いだ方。でも、何故、母上はこの方を連れて行ったのだろう?…母上は、私よりもこの方を大事に思ったという事なのだろうか?)

母の温もりを知らぬカレンディラは、そう暗く考えてしまう。



目に見えて落ち込む娘に、父であるクロスは声をかけた。

「カレンディラ」

「はい、父上」

「お前の母はな…お前を誰よりも、愛していた。だが…、個人の意思など、忠義の前では小さな事だ」

「忠義…、ですか?」

「そうだ。私は昔も今も、陛下への忠義を貫く為に、生きている。お前の母もそうだった。あの方に、お前の母も並々ならぬ恩があった。だからこそ、己の感情よりも、忠義を優先させたのだ」



強い意思を宿した父の瞳に、カレンディラはまた考えた。



(忠義の為に、母上は己の命と引き換えにしても構わないと、そう思われて、動かれた。なら、一体、私はアリファエル様の為に、何が出来るだろうか…)


この2年、カレンディラは、アリファエルを間近に見てきた。


(アリファエル様は愛する人を見つけられ、その方の為に、動かれている。私は臣下として、そのお考えを支えると決めた)


だが、そう思っていても、まだまだカレンディラには、出来ない事の方が多い。

(まだまだ、私は力不足だわ。でも、いつかは父上の様に、私がアリファエル様の盾と呼ばれたい。その為に、もっともっと強くなろう)

カレンディラが、そう考えていると、泣くのを止めたフィラムが聞いた。



「ッ…クゥっ………。あの…」

「はい」

「僕の…お母さんは……どんな人でした?」

「フィラム様のお母上様はとても、お優しい方で、誰に対しても、細かな気遣いの出来る方であられました」

クロスは過去を思い出し、目を細めた。

「そうたとえ、相手が下働きでも、その者の目をきちんと見て、話をされる方でした」


「フィラム様」

「は、はい」

「貴方様は、愛されています」

「えっ?」


クロスは、それを言うのはまだ早いか?と、思いながらも、目の前で悲しみに沈むフィラムを見ていられなかった。


「フィラム様。…貴方様のお父上様は、まだご存命であられます。貴方様のお父上様は、貴方様が自分の元に居なくとも、遠き地で、生きておられるだけで、幸せだと言っておられます」



その言葉に、フィラムはまた言葉を失った。


でも、母は死んだが、父はやはり、生きているのだと、嬉しい気持ちが浮かんだ。




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あきゅろす。
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