BL小説「虜」
新たな真実
緊張しているのか、顔が強張っているフィラムを前にして、クロスは思った。
(本当に、よく似ている…。今でこの姿ならば、成長すれば、その美しさはどれほどのモノだろうか)
クロスは、ある人の笑みを思い出した。
『クロス殿』
そう自分を呼びながら、淡く笑ったあの人。
(禁断の愛に身を焦がし、儚く散った貴方様の幼い頃を見ているようだ)
思考の海に、浸りかけたが、そんなクロスへフィラムは勇気をだして、声をかけた。
「あの…教えてください。僕は…あのお墓に眠る人の子ではないんですか?」
不安に揺れる瞳。
クロスはフィラムの目をしっかりと見て、答えた。
「先ほども言いましたが、あの墓に眠るのは、私の亡き妻ですが、貴方様のお母上様ではありません」
その言葉に、フィラムはどう返せば良いか分からなかった。
生まれてから今まで、母親だと思ってきた人が自分とは血の繋がらぬ赤の他人だと聞いて、すぐに受け入れられる訳がなかった。
そんなフィラムに、クロスは更に言った。
「我が妻カーツが貴方様を連れて逃げたのには、ある理由がありました」
「……理由…?」
「フィラム様。貴方様は…バルカの血を受け継ぐお方です」
「バルカ…?」
「ち、父上!?」
そう言われても、訳が分からないフィラムだったが、これにはカレンディラも驚いた。
「バルカの一族は特別な一族です。貴方様の本当のお母上様はバルカのセルネスでした」
「セ、セルネス…?」
「はい、星詠みの最高位に与えられる名がセルネスです。お母上様は歴代最高の星詠みであられました」
「あられた?」
その言葉のニュアンスに、フィラムは嫌な予感がした。
だが、そんなフィラムにクロスは言う。
「フィラム様。…残念ながら、貴方様の本当のお母上様は、もうこの世には居られません」
「…っ!?」
悲しみに染まるフィラムから、クロスは視線を外して、言った。
「フィラム様。セルネスが子を産むという事は、己の命と引き換えなのです」
「えっ?」
「セルネスという存在は親子二代に渡り、強い力を持った子を作る事が出来ます。ですが、セルネスが母親の場合、腹の子は、母親の生命をすり減らし成長します」
「なっ!?」
クロスは、残酷な事実を教えていると、分かっていながら、言葉を続ける。
「お母上様は、二代目のセルネスでした。ご自分も、お母上様の命を削って、この世に、お生まれになられた方です。母を殺し、生まれたのだと、ご自分を責めておられた…父上に、申し訳ないと、そうお泣きになった事もありました」
「………」
フィラムは、語られるその真実に、言葉が出ない。
「ですが、あの方は…フィラム様……、貴方様のお父上様と出会われ、その考えを変えられました」
「か、変えた?」
「はい…、愛する人の子を生める幸せがある事が、あの方を変えました。…そうお考えになるまでには、様々な苦悩や葛藤があられた事でしょう。ですが、フィラム様。貴方様が、こうして生きておられるのです。お母上様は、死ぬ間際まで、自分は幸せだと笑っておられましたよ」
「ヒッ、ヒッ…クッゥ…」
フィラムは、涙が止まらなくなった。
母だと思ってきた人は、本当の母ではなく、自分が生まれたから、本当の母が死んだという事実を前にして、フィラムは頭が混乱した。
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