BL小説「虜」
2
「はぁ」
思わず、ため息を吐き出した。
そんなマリアテレーズへ。
「マリアテレーズ様。一体、何をお考えですか?」
と、側に控えていた一人の初老の男が声を掛けた。
マリアテレーズはその男へと視線を向け。
「ガウス。私が今、何を考えていたと思う?」
そう聞いて、微笑を浮かべた。
ガウスと呼ばれた男は、すぐに答える。
「マリアテレーズ様のお考えを私などが分かる筈もございません。ですが、マリアテレーズ様が何かを憂いておられていると、そう私には思えます」
その答えに、満足したのか、マリアテレーズは。
「お前のそういう所が、私は好ましいと思っている。少々、耳障りな事も言うが、お前は私へ誠意を持って、接してくれるからな」
そう言った後、カウチの横にあるテーブルからグラスを持ち上げた。
すると、ガウスは素早く、ワインの入った瓶を取り出し、グラスに注いだ。
「ガウス。お前と私は、随分と長い付き合いだな」
「はい、私がマリアテレーズ様にお仕えして、今年で50年目でございます」
「50年か…長いな」
胸のペンダントを触りながら、マリアテレーズは。
「私の本当の味方は、お前だけだ」
と、マリアテレーズにしては、珍しく弱々しい声音で、言った。
すると、ガウスは。
「私の人生は、五十年前のあの時から、マリアテレーズ様に捧げております。マリアテレーズ様からの如何なる命令にも、私は否とは申しません。御命令を下されば、何なりと致します。貴方様は、私の唯一の主です」
そう言って、頭を下げた。
そんなガウスを見て、マリアテレーズは言う。
「お前に、一つ頼みたい仕事がある」
「何でございましょう」
マリアテレーズは、テーブルに、無色透明な液体の入った小さな小瓶を置いた。
「コレを飲ませるだけで良い。あの女に、終わりを与えてこい」
あの女が誰を指したか、すぐにガウスは理解した。
理解した上で、静かに小瓶を手に取ると、余計な質問をせずに、懐に入れた。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!