BL小説「虜」
4
元々、マリアテレーズはガーメイル帝国と友好関係にあるダリア王国の王弟の末娘。
同い年の腹違いの弟と共に外遊の為、ガーメイルへ来た事が、その後の運命を決めた。
そして、共に来た弟こそが、フィルデガルドの父であった。
だが、王弟の子とはいえ、奴隷上がりの母親から生まれた彼は、男ではあったが、皇位継承権を持つことは許されず、生まれてすぐに、世継ぎのいなかった男爵家へ養子に迎えられ、成人になった時、ガーメイルの駐在大使に任命されたという経緯があった。
部屋の窓から夜空に瞬く星を見上げ、何かを思い出す様にして、マリアテレーズの表情は一変した。
強さを体現した様な女の姿は、そこには無く、一つの憂いを抱く女の顔が、そこにはあった。
「ユリエス。貴方が知る私は、とうに死んだ。今の私は、あの頃とは何もかも、変わり果ててしまった。今、貴方に聞けるなら、聞いてみたい事が沢山ある」
普段は、威厳を持たせる為だけに、堅苦しい口調だが、過去に思いを馳せる内に、素の自分が顔を出す。
仮面を外したマリアテレーズは、少しだけ口調も普段とは違っていた。
意味を成さない独り言と分かっていても、マリアテレーズの言葉は止まらない。
「それに、あの小さかった子が、貴方と同じ道を選んだ時、私は柄にも無く動揺したわ。確かに、私はあの子の伯母だけれど、自分を守る為に作り上げた虚像の自分でしか、接してやる事が出来なかった」
「ユリエス。聞いていて?貴方が最後に言った通りだった。貴方の大事なあの子は、沢山の愛に包まれていた」
天に輝く星を見上げながら、死者に向けた独り言は続く。
「でも、まさか…だったわ。あの子が、あの可愛げのない義孫と愛し合っていた…なんてね」
義孫は、容姿だけではなく、その性格の本質も、祖父帝ザナルダレルに、よく似ていた。
いや、性格の本質ならば、親子三人は三人とも、似ている。
「…他のことならば、何でも器用なのに、本気の恋や愛には、妙に不器用な所も、似ているわ。でも、三人が似ているのは、そこだけ…」
ザナルダレルは享楽的であり、その息子である皇帝は、生真面目。
ゼルフィードは、媚びうる人間達に囲まれ、人間不信に陥っていた。
「多分、ゼルフィードの心を癒したのは、フィルデガルドだったのね」
二人が、何処で出会ったか、マリアテレーズは知らない。
だが、調べれば容易く分かっただろう。
しかし、マリアテレーズは、詳しく調べなかった。
調べる必要性を感じなかった事もあったが、それ以前に野暮な真似はしたくないと思った。
当時、ゼルフィードとフィルデガルドの間には、様々な障害が横たわっていた。
その為、二人は人前では決して、親密さを出さず、友人として振る舞っていた。
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