BL小説「虜」 3 星詠みのユリエス。 彼は誰よりも、本当のマリアテレーズを知っていた。 心から望んでいた結婚を潰され、悲しみに沈んで、泣いてばかりいた時、ユリエスはマリアテレーズへ会いに来て、言った。 「マリー。大丈夫です、貴女は幸せになる。これ以上の不幸は貴女にはない」 この時、その言葉をユリエス以外の人間に言われていたら、マリアテレーズは、激怒しただろう。 だが、誰よりも信頼していたユリエスの言葉だからこそ、マリアテレーズは、半信半疑ながらも、泣くのを止めた。 (ユリエス。貴方が言った通りだった。…私は…不幸にはなってはいない) 好色として知られていたザナルダレルは、当然の様に、正式な結婚をする前に、マリアテレーズを犯したが、その心までは、求めなかった。 (あの方は、好色ではあったが、暗愚ではなかった) 年若いマリアテレーズが、年老いた自分を愛さないと、ザナルダレルは分かっていた。 だからこそ、憎まれても構わなかった。 自分に向く、マリアテレーズの怒りを楽しんでさえいた。 マリアテレーズが望まぬ形で、産んだ二人の子を、ザナルダレルは溺愛した。 (私は、あの方が生きていた間、ただ嘆くだけだった。でも、あの方が死んで、初めて私は自由になれた) 他人の目から見れば、マリアテレーズは、その美貌により、皇帝の目に留まり、寵愛を受けた幸運な女だ。 (虚しさを埋める為に、私は…強さを求めただけだ) だからこそ、正直に言ってしまえば、マリアテレーズにとって、義曾孫のアリファエルの存在など、どうでもいい存在であり、どこかの馬鹿な女が、その義曾孫を使った馬鹿な野望を抱いても、その為に、どれだけの力を付けても、全てがどうでも良かった。 それに、名君と呼ばれる今の皇帝の秘密をマリアテレーズは握っている。 だからこそ結局、誰も自分には逆らえないという確固たる自信がある。 しかし、あの馬鹿な女は自ら、死の道を歩んだ。 馬鹿な女は死ぬまで、弱みを握られていたという自覚が無かった。 (あの女は、愚かな女。自らの愛だけが、自分の全てだった女だった) 可憐で純粋だった二人の少女。 だが、二人の運命は、生と死に別れた。 成功者と脱落者。 宮中で、影の支配者と呼ばれるに至った女と最悪の毒婦という汚名を残す事になった女。 この違いは一体、何なんだろうか?。 それに、世間は知らない。 「至上最高の星詠み」と「最悪にして最凶の太皇太后」が、実は血縁関係だという真実を知らない。 [*前へ][次へ#] [戻る] |