BL小説「虜」
2
取り乱すようにして、そう否定するシュレーナに、マリアテレーズは暫し、考えるそぶりをした後。
「そうか、私の勘違いだった様だな。それは悪かった。その言葉を信じるとする。何、私も皇太后を悪くは言いたくはないからな」
と、返した。
しかし、その顔には愉悦の色が浮かび、声音は弾んでいた。
隠す気の無い本音が見える発言を口にするマリアテレーズへ。
「ッ…分かっていただけなら…良いのです…」
と、シュレーナは唇を噛みながら、答える。
シュレーナは分かっていた。
(この人に、この人に、何を言っても、通じない…)
シュレーナは、ただ耐え忍ぶしか出来ない。
太皇太后と皇太后。
この二人、決して仲の良い嫁と姑は言えない。
先々帝の妻であるマリアテレーズと先帝の妻であるシュレーナ。
この二人の年齢は義理の親子とは言え、驚く程に近い。
52才のシュレーナに対して、マリアテレーズは56才。
その差、四歳。
二人の年齢の差が近い理由。
それには、悲しい過去が関係していた。
先々帝は、最初の皇妃を亡くしてすぐ、二人目の皇妃として、ある貴族の娘だったマリアテレーズを娶った。
マリアテレーズがある人物の婚約者と知っていながら、先々帝は18歳と年若いマリアテレーズの美貌に目を奪われ、半ば強引に、その婚約者から奪った。
晩年の先々帝は若いマリアテレーズに溺れ、その姿は、浅ましいと後にまで、陰口を言われた程であった。
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