小説「召喚と召還の結末」
息子の思い
父親であるブラックのある願いを息子であるグレイブは知っている。
今よりも、幼い頃に、ブラックはグレイブに言った。
「グレイブ。父さんには、絶対に果たさなければならない‘約束’があるんだ。その為なら、どんな逆境にも、どんな苦難にも耐えてみせる。だが、もしも、俺が‘約束’を果たす前に死んだら、お前が‘約束’を果たしてくれ」
なんの‘約束’かは、教えてくれなかったが、いつになく真剣な父親の姿に、まだ幼かったグレイブは、満面の笑みを浮かべて、答えた。
「うん!!絶対に果たすよ!!」
その時のグレイブには、死という観念が無かった。
ただ単に、父親との約束だと思った。
だが、あれから数年、死という観念を理解した息子は。
(オレ、かなり悲しい約束したかもしんない?)
と、思った。
だが、あの父親が死後でも、果たしたい‘約束’なのだ。
もしも、父親が‘約束’を果たせずに死んだ場合、息子として、その‘約束’を果たそうと、そう思う。
宿屋の一室で、ベッドに寝転がりながら、グレイブは言う。
「ねぇ、ピナ。父さんには、どうしても、果たしたい‘約束’があるんだって、ピナは父さんが、その‘約束’を果たせると思う?」
ピナは突然、そんな事を聞かれても、慌てずに。
《我は、あの御仁が、どんな‘約束’をしたのか知らぬが…あの御仁ならば、果たすと思うぞ》
と、返した。
「だよねぇ〜。オレも、父さんなら果たせると思うんだ…でも…」
悲しそうな顔で、言葉を濁すグレイブに、ピナは聞く。
《主、どうしたのだ?》
グレイブは、顔を上げて、答える。
「父さん、言ってたんだ。もしも、自分が‘約束’を果たす前に死んだら、お前が‘約束’を果たしてくれって…」
その言葉で、ピナは主の悲しみの原因に気付いた。
主である少年は、恐れているのだ。
だが、その恐怖は父親が死ぬ事ではなく、父親が‘約束’を果たせずに死んだ時、その‘約束’を自分が果たせるかという事に恐怖した。
今のグレイブは、まだまだ子供である。
これから、成長してゆく事で、精神的にも肉体的にも、変わるだろう。
だから、ピナは。
《大丈夫だ。主はまだ、子供なのだぞ?成長すれば、あの御仁のような大人になる可能性はある。それに、主には私が居るではないか。それでも、不安か?》
と、主を鼓舞した。
そんなピナに、グレイブは。
「そっか…忘れてたや…オレ、一人じゃないもんね!!ピナも居るし、これからだよね!!」
と、笑顔を取り戻した。
《さぁ、悩みが消えたなら、もう寝てはどうだ?》
「うん!!おやすみ〜」
そう言うと、毛布を手に寝る事にした。
ピナは、そんな主を暖かい眼差しで見つめていた。
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